「はっはっはっ!」
タッタッタ――と軽快に足を動かして走る。蒸し暑くなってきた今日この頃。けど早朝はまだ爽やかな空気でとても気持ちよく走れるとその男の子は思ってた。
彼は部活に精を出す高校生の「園田 亮」だ。高校二年で野球の強豪校に入学した彼は実は最近まで腐ってた。なぜか……彼はスポーツ推薦でその高校に入った。
だからこそもちろん大好きな野球を頑張ってた。夢は甲子園にいってドラフトで指名されてプロへ! 更には日本を飛び出してメジャーへ!! 本気でそう思ってたし、自分にはその可能性があると思ってた。
でも現実は非情だった。彼は一年の頃の大会でデッドボールを運悪く顔面に受けてしまった。それによって彼の眼は片目がつぶれてしまって、眼帯をするようになってしまった。
片目ならまだ見えてるじゃん……とか思うかもしれないが、人間は両目で距離感を図ってる。それに何気に不便なく行動出来てるのは両目からの情報量があるからだ。
スポーツ選手にとって五体満足というのはとても大きいことだ。これが陸上とかならまだよかったかもしれない。けど園田亮がやってたのは野球だ。そして彼はピッチャーだった。彼は急速よりも正確なコントロールと豊富な持ち球が売りだった。
けど片目になったことでコントロールは大幅に落ちた。さらに、ただのキャッチボールにも苦労するほどだ。それによって二年で一軍のレギュラー確実といわれてた彼はその席を別の人に譲ることになった。
片目以外は依然と変わらない。なのに……もう試合に出ることもかなわないかもしれない。園田亮はバッターへの転向も試みた。パワーヒッターは無理でも、細かなヒットを量産するコンタクトヒッターなら……と思った。
でもそれも無理で……それならばと頑張ったバント職人にも距離感がつかめない彼には無理だった。盗塁をするための選手とかもいるが、確かに園田亮も足は早かった。でも盗塁で専門に出来る程じゃない。なにせこの学校は強豪だ。既にその役割の選手もいた。そうなるともう腐るしかない。
一縷の望みをかけて最近かなり話題だったどんな病気も怪我も直すという中学生に頼ろうともしたが、彼女の予定はどこまでも埋まってる。正攻法では予約を取ることさえできない。
だからこそ、新幹線とかを使って彼女の学校にまで行ったこともあった。けど結局、園田亮が彼女に出会えることはなかった。
部活にも徐々にでなくなって、スポーツ推薦だったから、部活に行かないと学校では居場所もない。その学校は部活に力を入れてて、その弊害で怪我とかでリタイヤした奴は多かった。
だからそんな奴らとつるむようになっていった。そして腐った人間というのは自暴自棄になって荒れていってしまう。そんな中に身を投じてしまってた園田亮だが……彼は今は久々にランニングをしてる。
怠惰な生活をあれから送ってた彼にしてはこの感覚は久しぶりだった。そしてきっと腐った彼を知ってる人たちはそんな彼を見たら驚愕するだろう。
「おはようございます!!」
彼はランニングが終わった後にグラウンドにいった。野球部専用のグラウンドだ。強豪校だけあって朝練は当然だ。だからここに行けば皆がいるとわかってた。けど久々の顔出しに園田亮は緊張してる。いや、一回はバックレたわけだ。
緊張しないわけがない。それでも自分を奮い立たせて園田亮はやってきた。
園田亮の登場に、野球部の面々は驚いてる。気まずそうな顔をしてる面々もいるし、新一年生は『だれ?』という感じでもある。
「園田……お前」
「主将……すみませんでした! 俺のバッティングをもう一度見てください!!」
そういって自分よりもかなり体格がいい主将に頭を下げる。そう、園田亮はもう一度野球をやるために戻ってきたんだ。