uenoutaの日記

好きなものを描いたり、買ったものを紹介していきます。

ある日、超能力に目覚めた件 第二章 第二話part2

 ストライクツー、あと一回でもストライクがキャッチャーミットに入ったら三振だ。流石にもう無理じゃね? と思ってる野々野足軽だが、父親の方は「まだ……まだだ」とか呟いて血走るような目で画面を見てる。そんな父親を見て「こわっ」とちょっと引き気味の野々野足軽である。
 けど自然と野々野足軽も画面に目が行ってしまう。なにせあれだけ言われてたんだ。この絶体絶命の状況でももしかしたらホームランを叩き込むかもしれない。そんな事を思いながら見てると、実況の人がピッチャーが動き出したのに合わせて――
 
「ピッチャー平井、投げた!」
 
 ――といった。そしてその直後だ。バッターとピッチャーを同時に映す関係上、そこそこ遠かったカメラが気持ちのいい音を拾った。
 
 カキーン!!
 
「園田、打ったああああああああああ! その打球は伸びる伸びる伸びる! はいったあああああああああああああああああああああああ!! ホームラン!! ホームランです!! 園田再びボールを場外に運びました!!」
 
 興奮冷めやらぬ……と言うのか、実況の人の熱狂か暑苦しい。けど甲子園はこのくらいの熱量が普通なのかもしれない。それをウザイとおもう野々野足軽はこういうスポーツ観戦に向いてないんだろう。
 
「うおしっ! どうだ!! 観たか足軽!」
 
 隣の父親がご機嫌に酒をあおってバシバシとしてくる。それを迷惑そうにしつつ、野々野足軽は「見てたからわかってるよ!」と抗議する。
 
「いやーやっぱり凄いな! これで何本目だ? 絶対にプロでも活躍するぞ!」
 
 まるで自分が関係者みたいに言ってる父親の態度がよくわからない野々野足軽だ。一体お前は何目線なんだといいたい。別にさっきのバッターの関係者でもないだろうに。ただの野球ファンが何をいってるんだ……とね。それからも彼は自分の打順が来るたびにホームランを叩き込んでた。この試合だけで合計八本くらいホームランを叩きだしてた。
 
「凄すぎね? これなんか対戦相手が可哀想なんだけど?」
 
 野々野足軽は別にどっちも知らない学校だ。甲子園だって今年の夏、初めて観たに等しい。やってる事は知ってたが、わざわざ観るかと言われたらそんな事はない。だからこそ、圧倒的に勝ってる側ではなくて、ボロ負けしてるほうに感情的に寄ってしまう。勝ってる側のファンなら素直に勝つことを喜べるんだろうが、そうじゃなかったらついつい負けてる方を応援してしまうのは人の性だろう。
 けどそんな野々野足軽の思いなんて空しく、負けてた側はそのまま負けた。これで彼らの夏は終ったのだ。それだけじゃない。三年生はこんな理不尽な試合で頑張ってきた三年間が終わりを告げた。実際彼らの三年間なんて全く持って野々野足軽はしらない。
 でもきっと部活に打ち込んできたんだろうってことはわかる。なにせ部活をやってる奴らは大変そうだだからだ。けど充実してそうでもある。仲間たちと一つの目標へと進む。それはきっと尊い事だし、負けたからといってその輝きが褪せることはないだろう。でも……これはあんまりでは? と野々野足軽は他人事ながら思った。

ある日、超能力に目覚めた件 第二章 第二話Part1

「おい、足軽。どうだ? 一緒に観るか?」
 
 自宅の自室からちょっと飲み物でも取りに行こうと一階に降りた野々野足軽。するとそこにはビール片手にテレビの前を陣取ってる父親がいた。既に出来上がってるのか、顔が赤い。そんな父親に野々野足軽の母親が「あんまり飲みすぎないでよ」――と言う。それに対して亭主関白な親父なら「うるせー!」とか怒鳴るんだろうが、野々野足軽の父親はそんなタイプではなかった。
 
「ははは、わかってるさ」
 
 そんな風に優し気に笑ってた。そういって母親が作ってくれたおつまみに手を伸ばす。ビールはこのくらいにしておつまみで口を満たそうとしてるみたいだ。
 
「どうだ足軽。今年は凄いぞ。特にここだ。ここのバッターが凄いんだ」
「野球に興味ないって知ってるだろ?」
「まあまあ。お前が好きな漫画とかみたいだぞ」
 
 そんな事を野々野足軽へと言ってくる父親は足軽を無理矢理隣に座らせた。いつもはそんなに干渉なんてしてこないが、酔っぱらってるからか、いつもよりはテンションがあがってるらしい。テレビで何を観てるかと思えばそれは野球中継だ。それも甲子園の映像だ。けど今は夜……リアルタイムじゃないのなら、既に結果が出てるのでは? とか思った野々野足軽だ。
 でもどうやら父親はそこら辺の情報を仕入れずに仕事終わりにその日にあった試合をゆっくりと観るのが好きなようだった。そして野々野足軽も野球に興味ないから、この試合の結果を知ってるわけもない。
 
 今は野々野足軽達は夏休みに入ってる。太陽が凶悪に降り注ぐ時期だ。万年家の中で過ごしてた野々野足軽だが、今年はどうやらそうではないみたいだ。今だって学校の宿題をせっせと取り組みつつ、色々と力を行使してる。なのでさっさとやるべきことをやらないと大変なことに……なるかもししれない。けど、こうやって父親が絡んでくるのも珍しいし、少しつきあってやるか……と息子として親孝行をしてやることにした。
 
「漫画って、なにそれ?」
「いやな、ここのバッターがホームランしか打たないんだよ」
「はあ?」
 
 野々野足軽はそんなに野球に詳しいわけじゃない。けどルールはわかってるし、学校の球技大会とかでもやったことはあるから観る分には困らない程度の知識はある。なのでそれがおかしい事なのはすぐにわかった。ホームランしか打たないってそれはもうおかしいなんてものじゃない。
 
「いやいや、いくら俺が甲子園に興味ないからってそれは酷いって。そんなのあり得るわけないじゃん」
「まあそう思うよな。お、ほら出てきたぞ。観てろ。きっと今日もホームランだ」
 
 そんな事をおつまみを食べながら父親は言う。そんなわけあるか……と思いながらも、テレビに視線を向ける野々野足軽。ちなみに近くにあった別のおつまみに手を伸ばす。バッターボックスに立ったのはいかにも野球少年って感じの丸刈りでこんがり日焼けしてる奴だった。てか大体丸坊主だから見分けが……とか思ってた。
 
 でも別段そんな特別そうには見えない。だって体格だってその彼は大きいかといわれるとそうでもない。普通だ。じゃあホームランをバカスカ打てるくらいに筋肉が服を盛りあげるほどにあるのか? となると、野々野足軽的には桶狭間忠国の方があるようにみえる。
 もちろん鍛えてないわけはないだろう。でも……そんなすべてのボールをホームランにするなんてほどに特別だとはおもえなかった。そして……
 
「ストラーイクツー!!」
 
 ――と既に宣言されてる。

転生したらロボットの中でした(ただし、出ることはできません)盤上の迷宮航路にご招待 24

 この船はそこまで大きくないからG-01はメイン通路以外に行けそうにない。なので私はなにもせずにアイ達に任せるしかないか……とか思ってた。けどどうやらアイはサボる事を許してくれないみたいだ。
 私にもっと働けと言ってくる。言っとくけど、私は今だってずっと働いてるからね。確かにみんなのように自身の足で歩いてるわけじゃないが、私はその分この貴重な頭を使ってるのだよ。
 
 まあアイはもちろん知ってるだろうけど。常に危険にだって気を配ってる。それにここはこんなふうに変に船が集まってるのだ。この場所自体が不安定ってこともあるだろう。なので私はそういう不安定なところはないか? とか常に探ってる。
 だってそういう不安定な空間というのは突如として発生したりするものらしいからね。アイや勇者ならそんな場所に落ちたとしてもなんとかできると思うけど、ミレナパウスさんが巻き込まれたら、大変だ。
 なので私は気をつけてるんだよ。でも実際、これから色々とある中でミレナパウスさんが単体になることもやっぱりどうしてもあると思う。それを考えると、今のままのスペックでは厳しいよね。
 
 勇者も魔王も、そもそもが強かったから気にしてなかったが、ある程度の強さってのは大切だ。もっとゆっくりと出来たら、ミレナパウスさんのアップグレードも考えるんだけど……今はそんな場合でもない。
 
「それではお願いしますね」
 
 そんなふうに私に言ってくるアイ。その言葉は丁寧だが、それはつまりは外面をしてるわけで……G-01を何やらすごい存在と認識してるミレナパウスさんは目をキラキラとしてるよ。
 その期待を裏切りたくはないと思う。思っちゃうよね。ほら、私って良いやつだから。けど一体どうしたら? よくスキャンしてるから、その対象を変えるとか? 実際すでにこの船全体はスキャンしてる。その全景はわかってる。けど内部のデータはスキャンしてない。内部の部品とかね。流石にそこまで……はね。
 
『記録を保存してるデバイスを見つければいいのよね?』
 
 とりあえずそんなふうにアイに聴いてみる。するとコクリと静かに頷く。しょうがない。私はとりあえずG-01の指を切り離した。それでアイたちのところまで向かわせた。そしてそこでそのブリッジの一番大きそうな機械? の下の方の板を強引に引き剥がしてたアイに誘導されてG-01の指はそこにつっこんだ。
 ここからメイン基板を通して内部を調査する。無理やりエネルギーを送って、その流れで様々な部品をしれるんじゃないだろうか? 私はその部品一つ一つを精査することなんてできない。
 けどきっとG-01がそれはやってくれるだろう。私はただ記録デバイスというワードを知ってればいいはずだ。

ある日、超能力に目覚めた件 第二章 第一話Part3

(やってしまった……)
 
 そんな風に園田亮は思ってた。実際まさかこんな結果になるとは思ってもみなかった。
 
(じ、自重しようとは思ったんだ……けど……)
 
 園田亮はバッドをみる。久々に握ってそして気持ちのいいバッティングが出来てしまった。それによって園田亮が心の奥へと押しやってた野球少年の心がホップステップジャンプして顔を出したといっていい。そもそもがあんな気持ちのいいバッティングなんてのはバッティングセンターでもそんな出来ることじゃない。あんな50球を全部ホームランで打ち返すなんてもちろんだが園田亮だってやったことない。
 
「実はお前らグルなんじゃ?」
 
 そんな声が先輩から上がる。今は園田亮が立石の投球をほぼすべてホームランにしてしまった事に対しての話し合いが行われてた。そこに参加してるのは主に三年生だ。なにせ今年の夏で卒業となってしまう彼らは日夜甲子園を目指して練習してる。
 そんな中、こんなパワーヒッターが表れたとなれば、甲子園へはぐっと近づく。この学校は甲子園常連校ではあるが、優勝までは遠いみたいな……そんな学校だった。だからこそ、先輩たちは代を重ねるごとに俺たちの代で優勝をとるんだ――という思いが強くなってる。
 そのためなら二年だって一年だって実力があるのならレギュラーになるのもいとわないという気風があった。だからこそ園田亮の驚異的なバッティングは魅力的だった。けどやっぱりすべてをホームランってのが引っ掛かった。確かに驚異的だ。けど凄すぎる。リアルじゃない。そういう考えがどうしても湧き上がるから、園田亮と立石が組んで園田亮を復帰させるために一芝居撃ったんじゃないか? という声も上がったんだ。
 
 けどそれならもっとうまくやるだろう……と声もあるし、そもそも立石は本気で落ち込んでた。流石にグルという線は考えづらいとは先輩たちはわかってる。
 
「おい園田。バッターボックスに立て」
 
 そういったのは一軍のピッチャー。この学校の野球部のエースだ。その彼の言葉に空気がひりつく。その言葉の意味を皆がすぐに悟った。これは『俺の球をホームランにしてみろ』という挑戦だ。
 そしてそれが出来たら……きっと問答無用で復帰が出来るんだろう。それだけの権力がエースにはあった。彼は野球至上主義なのだ。ピッチャーマウントにたったエースと向かい合うとその存在感に押しつぶされそうな感じさえ園田亮はした。けど……負けるわけにはいかない。だから彼は構えた。
 
 大きく足を上げるエース。特徴的なその投球フォーム。そして――
 
カキーン!!
 
 ――再び気持ちのいい音が空に響いた。

転生したらロボットの中でした(ただし、出ることはできません)盤上の迷宮航路にご招待 23

 私達はその場を離れる。私はその間もさっきもらったデータを解析してる。そして上に行くと大きな横穴が空いてた。なのでそこから別の船に移った。そこはさっきのところほど大きくはない。なのでG-01はギリギリ通れる……くらいだ。けどこっちもそこそこ進んでる文明の船って感じはある。船と言ってるけど、その形は飛行機に近いし。
 
 そこに入った時、サササーと何やら逃げてった。きっとあの目玉のやつではないだろうか? 単体で挑んでも私達には勝てないと判断してるんだろう。けど……
 
「見てます」
 
 そういうミレナパウスさん。けどそれは正しい。そう、目玉達は私達の邪魔はしない。けど……その大きな目をこちらに向けてる。観察してるようだ。わたしたちの弱点を探ってるのかもしれない。なかなか組織的だったし、新たなトップが出来てその命令を遂行してるのかも。そもそもが私が倒したあの巨大な目玉だけがトップとは限らないからね。
 あの目玉はあくまで現場のトップだった……という線もある。だから本当の頂点は別にいる……みたいなさ。まあけどわざわざ捕まえてしばいて吐かせる……ということもする気はない。集まってたらきっと大丈夫でしょう。
 
 そして今度はこの船の内部システムにもアクセスをアイは試みる。また何か情報がないか探りたいんだろう。実際上に行っても、下に行っても、なにか目的があるわけじゃないからね。
 そもそもがここに何故にメタリファーが連れてきたのか……それがわかってない。だから理由があるのならそれを知るためにも、ここに残されてることを調べていく必要がある。
 
 でもどうやらこの船の電源は入らなかった。いや、そもそもがどのくらい長い間、この次元にあるのかもわからないからね。さっきの船のほうが異常だったんだろう。こっちが普通だろう。ぶっ壊れて電源も何も入らないっていうね。
 
 でもどうやらアイは諦めてないらしい。
 
「この手の物体基盤なら、どこかにデータが保存されてるはずです。それさえ取り出せれば、G-01ならそれから残ったデータを吸い出せるはず、でしょう?」
 
 なんかまたそんなことを言ってきた。いや、知らないけど……アイが言うにはこの船はデータを物体に保存してるタイプだと判断してる。だからそのパーツが無事なら、それを取り出してG-01が直接データを吸い出せばいい……というわけみたい。
 私はそんなに機械に強くないんだけど……けどそれを見つけたらG-01が勝手にやってくれるとは思う。
 なので……
 
『ええ、当然です』
 
 とりあえずそんなふうに言っておく。

転生したらロボットの中でした(ただし、出ることはできません)盤上の迷宮航路にご招待 22

「これは……ただ単の未来への予測へのそれの対応策ってわけじゃないんだね」
 
 まあそれならアイがG-01へと送ってくるわけない……か。自分たちの未来なんてのは現状を分析したらわかるものだからね。それに含めて更には周囲の状況とかももちろん関係はしてくる。それらを完全に予測するのは難しいが、ある程度を予測することはできるだろう。
 
 だからその段階からどうやったら未来を変えることができるのか……けどそれでは結局のところ予測でしかない。運命を変える……それだけのことをいうとなると、ただの予測……とは思えなかった。
 そしてこの情報を見るに……これは予測ではない。変換……転換といってもいってもいい。運命の転換。そしてそれは……
 
「時間と空間に干渉してる」
 
 時間と空間というワードで思いつくこと……それはメタリファーだ。そう、そしてここにはメタリファーによって誘われた。なにかあるのかな? って思った。もしかしてこの船の人達もメタリファーと接触したんだろうか? 
 
 そして彼が彼らに運命の変え方を教えたとか? けどメタリファーは別にコミュニケーションが取れるか? といえば……ね。そういう存在ではなさそうだったけど。
 
『それで、これをどうしたいの?』
 
 私はそんなふうにアイに聞く。確かにこれは色々と面白いと思う。でもさ……大きな欠陥がこれにはあるんだよね。それをわかってないアイじゃないと思うけど。
 
『まあ保険みたいなものですよ。それに考え方は幾重もあったほうかいいのです。アプローチの方法が増えるでしょう?』
 
 なるほどね。つまりはアイはこれを今すぐに活用とかは考えてはないってことだね。ただ情報というか、知識として蓄えて置きたいみたいな? それがいつかは役に立つこともあるかもしれない。
 
 何もないかもしれないけど、なにかあるかもしれない。だからこそ、アイは情報を集めることに貪欲なのかも? 
 
『これって絶対にメタリファーが関わってると思うんだけど……どう思う?』
『そうですね。それに関係しそうな記録がありました。一体あの存在は何を考えてるのか……それにこの場所……』
 
 データから離れて、アイは周囲をみる。といっても、ここは室内だ。広く見れるわけじゃない。けどきっとアイはこの場所そのものを見てるんだろう。きっとここに船が集まってるのにも理由があると思ってるから。

ある日、超能力に目覚めた件 第二章 第一話Part2

カキーン!!
 
 青空を突き刺すように飛んでいく白球。その白い球は夏に向けてどんどんと高くなっていってる空の綿菓子に吸い込まれていくようだった。誰もがその光景を見上げた。その気持ちいい音が校舎に響き渡り、早くから来てた学生たちもきっと一度は空を見てしまっただろう。
 
 けど一人だけ、それに納得できてない者がいた。
 
「な……ななななな、ふざけんな!!」
 
 そういってピッチャーの位置にいる彼は帽子を地面にたたきつける。
 
「おい、立石――」
「部長!! もう一回! もう一回お願いします!! 俺の球があいつに……片目のあいつに打てるわけないんです!!」
 
 そういってる彼はどうしても納得いかないみたいだ。これ以上ないくらいに気持ちのいい音を出してたが……あれはきっとまぐれ、偶然、そんなのだと言い張る。
 
「落ち着け立石。そもそもがたったの一回で見極めるつもりはない。やれるな園田?」
「もちろんです部長!」
 
 そういって再び構える園田亮。そしてそんな園田亮に籠からボールを取って立石が声をかける。
 
「まぐれだったのに残念だったな。今度はああはいかないぞ」
「……」
 
 その言葉に園田亮は何も言わない。ただじっと、まっすぐに立石を見てる。そしてその目は一時も揺るがない。まるでもう一度ホームランを打つのを確信してるかのような……そんな目だ。そしてその揺るがない姿に立石は「まさかまた……」とか思う。でもそれを振り払った。
 
(そんな訳ねえ……そんな……)
 
 一度深呼吸をして嫌な考えも一緒に息と共に吐きだす。そして落ち着いてボールを握った。自身のフォームをいつものようにして、そしていつものように投げる。それだけでいいと立石は思ってる。園田亮がいなくなって収まったその席。けど、それはおこぼれなんかじゃない。いずれ追い抜くはずだったのが、早く来ただけ……そんな自信が彼にはあった。
 だから打てるはずない。けど――
 
カキーン!!
 
 ――すぐに聞こえたその音。再び青空に響いたその音は白球を遥か高くへといざなった。
 
「嘘だろ……」
 
 そんな誰かの声が聞こえた気がした立石。けどそれは聞かなかったことにしたようだ。
 
「もう一回だ!! いくぞ!!」
 
 もう部長の許可を取る気もないようだ。すぐに投げることで止められるのを防いだ。でも再び、三度の音が響く。でも立石は「もう一回だ!」といった。そのたびに気持ちのいい音は響いた。
 
 
「はあはあはあ……そんな……」
「気が済んだか立石。お前が投げた投球52球。その全てはホームランだ」
「そんな……こんなの……嘘だ!!」
「いや、本当に嘘のような結果だ。まさか全部ホームランなんて……この目で見てるはずだが、信じられない」
 
 力尽きてしまってる立石。そしてその立石に同情しつつも、部長はちゃんと結果をわかってる。けどその部長さえもその結果には疑問があるようだ。なにせすべての投球をホームランで返してるんだ。そんな事が起こりえるだろうか? と部長は……いや、部長だけじゃない。ここにいる他の部員たちもきっと思ってるだろう。