uenoutaの日記

好きなものを描いたり、買ったものを紹介していきます。

転生したらロボットの中だった(ただし、でることはできません)輪廻の輪の外へ 70

「ここは……」
 
 よくわからない空間に俺は漂ってる。どうなったんだったか……記憶が混濁してる。いや、混濁というか……自分自身が曖昧になっていくかの様な……自分の指を見ると、砂の様にサラサラと零れて行ってるようだ。自分という存在が自分から零れて行ってる。多分全て零れてしまうと、自分が自分じゃなくなる。
 
 それはつまり……
 
「俺は死んでるのか」
 
 ……そう思った。これが死ぬと言うことなのか。ならここは死後の世界。創世の『ミラジュルージュ』様やスピカの精霊はいないのか? 流石に世界が違うか……死後の世界に居る神が輪廻と転生を選別すると教会は教えていたが……この世界の神はどうなってるのか。
 
『何やってるの?』
 
 そんな声がこの何もない場所に響く。はじめて聞く声……の筈だが、なんだか妙に懐かしい気がする。その声は自分の砂となった一部が集まって聞こえてくる。
 
「俺……なのか?」
 
 なにせ自分の一部が集まってるんだから、そう思うのも無理ないだろう。けど、俺にしては随分甲高い声だ。まるで女性の様な声。
 
『まさか、私は聖剣『アルバラード』アナタを勇者に選びし聖剣です』
「聖剣? 本当に?」
『疑うのですか?』
「確かになんだか懐かしい気持ちがこみ上げてくるが……」
 
 にわかには信じがたい事だ。だって聖剣は確かに俺の相棒だったが、これまでどんなときも、こんな風に聖剣が話しかけてきたことなんか無かった。確かにこちらの強い思いと意思に聖剣は応えてくれてはいたが……それは聖剣にも意思があったから……と言うのはどうにも……
 
『しょうがないですね。なら私が知ってるアナタの恥ずかしい過去を語りましょうか。アナタは実は仲間の聖女よりも肉体的には弓使いのあの子が好きで、こんな唄も作ってます。
 
 『君の凜々しい瞳が射貫くのは敵だけじゃない。雷光の如く貫くその瞳と矢は天地を砕くごとし、俺の――』」
 
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
 
「認めるからそれ以上止めてくれ!!!」
『そうですか? これからが良いところだったのですが』
「おまえ……そんな良い性格してたんだな……」
 
 聖剣は一度鞘から抜くと空気が張り詰めるよう澄んで、その刀身は心を映す鏡である……とまで言われている。勇者の心が汚れると聖剣の刀身まで汚れて行き、切れ味が落ちていく。そんな逸話があるくらいに聖剣とは潔白。なのに……
 
『良い性格とは褒められて光栄です。まあこんな風になったのもアナタのせいです。失望しないでください』
「どういう事だ?」
『私達は、アナタの死によって強く繋がれた言うことです』
「やっぱり俺は死んでるのか……」
 
 なんとなく自覚してたが、やはりそうらしい。なら聖剣アルバラードこそが、輪廻と転生の審判をしてくれるのか? 
 
『アナタは確かに死にましたが、まだ完全に死んだ訳ではありません。確かに今、アナタの存在はその記憶と共にリセットをかけられています。ですが……感じませんか? 感じる筈です。勇者のアナタなら』
 
 そういう聖剣アルバラード。感じる? 何を? 俺は集中してみる。すると目の前になんか変な生物がいた。白い寸胴の体に、変な面をつけた様な生き物だ。それにそれは目の前だけじゃない。白いと思ってた空間全て……実はその存在で埋め尽くされてるようだった。
 
「なんだ……ここは地獄か」
 
 俺はそう結論づけた。