時間はない、けど焦りは禁物だ。私は二人に見えない状態を維持しつつ、ゆっくりと移動する。それは別に恐る恐るって訳じゃないよ。まぁそれも否定はしないけど私は二人の動きを一生懸命見てるんだ。そして感じようとしてる。何を? って、それは私にもわからない。でも強いて言うなら流れってやつだ。
今のままでもAIの軌道予測はなかなかだけど、今はそれに私……というかG-01が追いつけない。いや、追いかけるのも厳しい状態だと言わざる得ない。それだけのダメージを負ってしまった。
「けど、二人が調度ぶつかり合う位置に入れれば……」
奴らは闇雲に、いやハチャメチャに動きながらぶつかり合ってる。まるで小さな子供が自身の有り余るエネルギーを闇雲にでも消費させんとしてるかのよう。
だからこそチャンスはある。ゆっくりとしか移動できなくても、二人の動きをちゃんと見て、そしてAIの軌道予測のさらに向こう側を想像する力があれば……
「つっ!?」
時々、勇者と魔王どちらかとニヤミスするときがある。はっきり言ってそれがメッチャ怖い。何せこっちは二人から見えなくしてるだけだ。
今の状態で二人のどちらかとぶつかったら終わっちゃうよ。てかきっと擦ってもばれるからそれも絶対にやっちゃいけない。
全ての軌道予測と二人の動きから絶対的な安全地帯に移動す続けないといけない。頭も目も……いや細胞全てが沸騰しそうな程に滾ってた。自分が本当にドロドロに溶けてしまうんじゃないか思う。
『力を使いすぎです』
「使ってないわよ」
AIがおかしな事を言ってくる。私は拳に二人をどつくための力しか残してないっての。なのに……
『あなた自身の魂の力といえるべき物が減っています。危険です』
「で? それが何よ? 要は私の魂がなくなる前に決めれば良いんでしょ!」
なんで言葉を荒げたのかわかんないが、きっとハイになってるんだと思う。なにせ片腕もげて、全身には痛みがある。ハイになってないと泣きそうだ。
『持ちません!』
「だい! じょうぶ……」
尻すぼみになっていく声。もう声出すのも限界だ。けど私は信じてる。二人だって今きっと戦ってる。復活しようとしてるはずだ。なにせ二人ともそんな殊勝じゃないでしょ。諦め悪いでしょう。
二人の体がだんだんとこの世界に染まってる。でも、その時が来る方が早かった。
「私達の勝ちだよ」
言ったのか思ったのかは分からない。けどこの瞬間、私達三人は重なり、二人の完全意識外からできうる限り最速で拳を振るった。
「どっせぇぇぇぇぇぇい!!!」