「血浄は血の盟約なんです。我らの神『カンジャズバラバン』様に血を捧げ、神の力を承る。それによって我らは砂獣に対抗し得る力を得る事が出来ます」
「へえー、なら俺も血を捧げれば、その力が受けられるのか?」
「それは……どうっすかね?」
自分も血を捧げれば、パワーアップ出来るのかと思ったが、まあ確かにそれを明言なんて出来ないよな。そもそもこの体に流れてるのは血のような何かであって血ではないような? 俺の体は根本から変わって締まってる。体内から流れ出る水分を全部血だとその神様が半断じてくれるなら、パワーアップの恩恵にも期待できるんだけど……
「試してみるか」
そう言って俺は自身の指先をちょっと切る。赤い血の様な物が指先から溢れてくる。
「血浄!」
指を天に向けて言ってみた。でもなんか砂漠の乾いた風が吹くだけだ。
「いや旦那、聖杯に一度血をくべないと神様も判断できねーよ?」
「どういう事?」
「いや、だから聖杯っていう器があって、そこに血を捧げないと神様の籠は得られないんだ。確か賞金稼ぎ商会に登録とかするときに血を取られなかったか?」
「いや、取られてない」
そもそも賞金稼ぎ商会に登録なんてしてないからな。特例で俺達は仕事が出来るようにしてもらっただけだ。
「聖杯か……どんなのなんですか?」
「うーん、そうそう見れるものじゃないですからね」
「そうだな、ここ数年は外にお披露目されてないな」
「前に見たときは白くて周りに宝石が一杯あったような気がするぜ。売ればきっと一生遊んで暮らせるぜ」
ふむふむ、まあ聖杯なんていう大層な代物はそうそう庶民にお披露目する物ではないだろう。いままでの話を総合すると、血浄はその聖杯に血を捧げないと出来ない。血は別に直接捧げなくてもいい。聖杯はかなりお高そうって事だ。
「実際、聖杯に血を捧げる瞬間って見たことありますか?」
「あるぞ、領主様が土地を清める為に年に一度はやるからな」
「土地を清める?」
「ああ、砂だと砂獣がどこから出てくるかわからないだろう? 領主様の血を聖杯に溜めてそれを撒くと砂は清められて地面となるんだ。そしてそこからは砂獣は沸かない。だからこうやって街を築ける」
「それは領主じゃないとダメなの?」
「うーん、そうなんじゃないか?」
色々と気になる事が出てきたな。この世界の仕組みはまだまだ知らない事だらけだ。そもそも砂獣に関する事しか調べてなかったしな。流石にこれ以上詳しい話は彼等ではわかりようもないだろう。なら、帰って領主であるバジュール・ラパンさんに聞くのが一番だろう。
俺はこの街道の先をちょっと見るけど、直ぐに振り返ってアズバインバカラへと戻る。