治療の効果は劇的で、両足に右手が生えてきたら、彼女は直ぐに目を覚ます。だけど、魔法は彼女の体力……というか生命力にも干渉して、再生を促してるから無理は禁物だ。
「ここは……」
「ここはアズバインバカラだよ。ちなみにここは賞金稼ぎの事務所だ」
「あの野蛮な……」
いきなり出てくる言葉が野蛮とは……確かに賞金稼ぎ達は野蛮というか、口よりも拳が先に出てくる奴らが多いから間違っちゃいないと思う。でもそれを助けられた直後にいうとは? まあ彼女は多分、自分がどうして……いや、どうなってたとか、わかってないんだと思う。そしてどうやらその推理は当たってたようだ。
彼女はいきなり目を見開いて叫びだした。
「ああ……ああああああああああああああああ!!」
更にジタバタもし出すから、ベッドの上から落ちないように、おやっさんと弟子が体を押さえだす。
「砂獣が!? 私の体が!!」
「落ち着け! ここには砂獣はいねえ!! それにアンタの体も元通りだ!!」
おやっさんがそう叫ぶが、彼女はなかなか止まらない。多分彼女はあの場所で気絶したから、まだ精神的にはあの場所にいるんだろう。自分は横から彼女の顔を見つめて、その額を一本の指で突く。いや、別に突いてはいない、ただ優しく指をおいただけ。
「僕を見てください。大丈夫ですから。落ち着いて」
自分はそう言って優しい声音を出す。すると不思議な事に、さっきまで暴れてた彼女が直ぐに大人しくなった。呼吸も落ち着きを取り戻していき、はだけてた毛布をこの隙に素早く弟子が戻した。流石に素っ裸で居させるわけにはいかないからね。
「大丈夫ですか?」
「ええ……ええ、大丈夫よ。ここは……」
どうやらさっき言ったことは全く頭にはいってないらしい。まあ取り乱してしまったからね。本当に最初の言葉は反射というか、無意識に口を突いて出てきただけなんだろう。なのでちゃんと最初の言葉を反復して彼女に伝える。
「そうです……か……私は助かったのですね……あれは夢でしたのでしょうか?」
まあ彼女が夢だったのでは? と疑うのもわかる。だって彼女の体ととても綺麗になってる。怪我も一つもないしね。そうなると、あの体験自体が夢だったのでは? と、思うのもわかる。けど、それを夢では終わらせていけない。なにせ砂獣に襲われた訳だし……
「まあ今はゆっくりしときな。後からお偉いさんがくるだろうよ。その時に、夢かどうか、ゆっくりと判断すればいい」
おやっさんはあくまで患者としてしか対応はしないらしい。何か事情を聞こうなんて事はしない。でもそれが正しいのかもしれない。此の後彼女は自分が裸の状態とかで取り乱しかけたけど、治療の為には仕方なかった――と言うことをなんとかわかってもらった。
その時「責任」がどうとか言ってたが、そんな事を言われてもね。あくまで医療行為だったんだ。彼女もあの出来事が夢ではなかったとちゃんと受け入れる事が出切ればきっとわかってくれるだろう。なにせ彼女は死をその肌で感じたはずなのだから。