部屋の外に出ると、なんか普段あまりここでは見ない人達がいっぱいいた。自分はラパンさん達を呼び出してない筈だが……この事務所の誰かが、気を利かせて呼びに行ったのだろうか? まあだけど、呼びに行く手間が省けたのは良かった。
「おお勇者殿、ここにまた人が運ばれたと聞きましたが」
「ええ、かなり酷い状態でしたが、今はもう大丈夫です」
「それは良かった」
「それと、中の人は多分それなりに身分が高い人だと思われます。ラパンさんなら誰かわかるかも知れません」
「なるほど……なら、私が会ってみましょう」
ラパンさんってフットワークが軽い。自分が元いた世界の上の方の人なんて、なかなか動こうとなんてしなかった。けどラパンさんはこの街を治めてる立場なのに、こうやって軽快に動いてくれる。いや、だいたいジゼロワン殿が動くと、厄介な事が起きてると想定して、最初からラパンさん自身が動いてるのかもしれないが……
(とりあえずやれる事はやったし、少し外の空気でも吸うか)
中はいつも以上に混雑してる。なにせ野次馬の賞金稼ぎの奴らに、今はラパンさんを護衛するための近衛達まで中にいて、はっきり言ってむさ苦しい。
「おい、どうなったんだ?」
外に出る為に人混みをかき分けてると、そんな風に声を掛けられる。だから自分は「もう大丈夫だよ」といって置いた。賞金稼ぎの奴らには運び込むとき、血まみれだった彼女を見た奴も居ただろうから、心配してたのかもしれない。
がめつい奴らだが、仲間意識は強いんだよね。どれだけ強くても、この世界の住人達は一人で砂獣を倒すって事は出来ないからな。いや、ジャル爺さんなら若いときは一人でも砂獣の相手を出来たかもしれないけど。あの人は例外だろう。
ここに居る奴らだって皆筋骨隆々だが、それでも砂獣の一撃をまともに食らえば、体に大穴があく。それが普通だ。まあそれでも直ぐには死なない生命力がこの世界の住人にはあるけど。
外に出ると、新鮮な空気が体に入ってくる。まあ乾いた空気だけど……むさいおっさん達でくさくなった空気よりはマシだ。そう思ってると、僅かな振動を感じる。これは多分ジゼロワン殿だろう。治療を終えたから移動しだしたらしい。でもこれは……
「よっ」
俺は地面を蹴って屋根に上がる。ジゼロワン殿は大きいから直ぐにわかる。どうやら街の外を歩いてる。でもあの方向はジャルバジャルでもない……自分は彼の後を追った。声をかけるだけなら、通信で良いんだけどな。なんか思わずだ。
「どうしましたか? まさかまだ誰かが助けを求めてるとか?」
足元についてそんな事を言うと、ジゼロワン殿は遠くを見たままこういう。
『世界が大きく揺れそうです』
その言葉を受けて、自分もその先を見据えるが……あいにくと自分には未来も何も見えない。