「そんな事、出来るわけがない。無駄な事だそ! そいつらの太陽への帰還を邪魔するな!!」
後ろから拘束された仮面の奴らがギャイギャイとうるさい事を言ってきてる。コイツラ的には太陽への帰還はきっと楽園へと至る――とかそういうことなんだろう。死して楽園へと至る。よくある宗教的、文言だ。その考えを否定はしない。死の先に、楽園があるというのは、俺の世界の宗教でもそうだった。でも……それは強要することじゃない。この人達は、まだそんなところに行くことを望んでたわけじゃないだろう。まあ生活環境的に、楽園に行けるって言われたら、もしかしたらこれも受け入れたのかもしれない。でも……せめて人として、死にたかったんじゃないだろうか?
俺は仮面の奴らの事は無視して、集中をます。やった事が無いことをしようとしてるんだ。だからわざわざ外野にかまってる余裕はない。
「まずは一人だけだ」
複数人いるが、全員に一度に施術をするなんて不可能だ。だからまずは一人だけ。俺は力を体内へと侵入させる。そして更に奥へ、そして同調させる様に意識する。
「うぐ……」
痛い……少しだけ同じ様に力を同調させたが、その瞬間に、体に痛みが走った感覚があった。それはもしかしたら、同調したから? チクチクとした痛みだが……同調を深くするごとにその痛みはリアルな物に成っていってる気がする。そして次第に体だけじゃなく、心にも……
(痛い痛い痛い! 憎い憎い憎い! 殺す殺す殺す!!)
そんな怨嗟が同調することで自分の中へと渦巻く。確かにこの人の体は侵食されて、既に化け物になってしまってる。でも完全にこの人の存在が消えたわけではないみたいだ。確かにとても曖昧だ。でも……確かに彼はそこにまだいる。こんな怨嗟が渦巻いてると、どんどんその怨嗟の渦に飲まれていくことだろう。そして飲まれきったらもう本当にただの化け物になるんだろうと思う。痛くると苦しくて、そして悲しい……そんな感情しかなかったら、怨嗟に包まれていくのもわかる。俺も今……苦しい。
だが俺は勇者だ。勇者は絶望なんてしない。怨嗟に飲まれるなんて事はない。俺はそんな怨嗟を押しのけて、残ってるその人の意識に近づく。力を渡す。そしてささやくよ。
「信じてください」
多くは語らない。いや、語れない。でもそれだけで良かった。苦しみの中にあった彼は俺の事を受け入れる俺の力をうけいれる。これでこの体のほんとうの状態を知る事が出来た。元の状態がわかれば、差分を精査して元に戻すことだって……出来るかもしれない。だからこのひとの元の意識はとても大切だ。俺は内部からこの人の体をもとに戻していく。