(ようやく堂々と仕掛けてくるか)
俺は不覚にもそんな風に思ってた。なにせ案外というか、予想通りに俺はこの世界の魔法を簡単に打ち破れてる。なら、裏でコソコソとやられるよりも、真正面からしてくれたほうが、俺的にはありがたいのだ。
なにせ俺はそこまで裏の駆け引きが上手いわけじゃない。ペニーニャイアンの様な奴は逆で、本来ならこいつを表に引っ張り出すまでが大変だった筈だ。そういう立場だろう。だが、そこらへんはローワイヤさんの存在でひとっ飛びできた。そしてローワイヤさんをなかなか殺せない事にしびれを切らしたんだろう。
「足止めしてなさい」
そうペニーニャイアンは告げると、メイドや執事たちがこちらに向かってくる。それを見て本気か? と思った。だってこちらは日々砂獣と戦ってる賞金稼ぎが主だぞ? こんな場所でぬくぬくと生活してる様なやつに遅れなんてとりようが……とか思ってると、こっちに向かってきてる最中に執事やメイドはなにかを取り出して口にいれた。そしてごくんと喉が動く。
すると彼らの目が充血して、顔に……いや、顔が見えてるから、そこだけに注目が行くだけで、多分だけど全身に血管が浮いてるんだろう。ヤバいぞなんか。今飲んだの……絶対に体にヤバいものだと思う。
「なんだこいつら!?」
「うお!? 速いぞ!」
賞金稼ぎの連中もびっくりしてる。ローワイヤさん達は声も出せないでいる。いや、ローワイヤさんはこういうの知って……はないみたい。本当にあんまり教えられてなかったのか? 一応ピローネが後釜らしいが、それまではローワイヤさんは神託の巫女として育てられてたのなら、ピローネとローワイヤさんの知識の差はおかしい気がする。
「とりあえず、大人しくしててください」
俺は皆が驚く中、一瞬でこちらに向かってたメイドと執事、合わせて数十人を無力化した。遣り方は簡単で、全員に一撃入れてお眠り頂いた。
(なんか感触がおかしい奴が居た気もするけど……)
全員に認識外から腹に一発いれていった訳だが、明らかに人の皮膚ではない感触の奴がいた。改めてみると、服を破って黒い砂獣の様な外殻が飛び出てる?
(やっぱりヤバい薬じゃん)
こんなのを使わせるなんて……もとに戻るのか? いや今は……
「なっ!? 何をしてるの! 早く立ち上がってそいつを押さえなさい!」
何が起きたかペニーニャイアンはわかってない。いや、こっち側の奴らも俺が何をしたのか、わからなかっただろう。ただ、いきなり向かってたメイドや執事が次々と倒れたとしか思えなかったはずだ。
「無駄ですよ。全員眠ってもらいました」
俺はそう言ってペニーニャイアンを見据えた。すると初めてだろう、ペニーニャイアンは歯を食いしめて悔しがった表情を見せた。