「どうやら私は……思い違いをしてたようですね」
ペニーニャイアンは立ち上がりながらそんな事を言った。思い違い……それがこいつの地位にあぐらをかいた横暴……なら良いと思う。けどきっとそうじゃないんだろうなってこれまでの経験から思う。
これまでの経験と言うのは、別にこの世界での経験だけじゃない。元の世界の時の経験だって含めてる。俺は勇者だからな。だからこそ、権力者って連中が近づいて来ることはよくあった。
そういう権力者と呼ばれる人達の中には、本当に自分が特別だと……そう思ってる人達は一定数いるものだ。そしてそれを自覚することはない。なにせ当たり前のことだからだ。自分が特別なのは当たり前……そして目の前のペニーニャイアンにとっては、世界とはきっと思い通りになるものなんだと思う。
「もうやめてくださいペニーニャイアン。貴女では勇者様には勝てません」
ローワイヤさんがそう声をかける。でも別にそれは彼女を思っての事ではない。ローワイヤさんもかなりドライだからね。最初はショックを受けてたみたいだけど、彼女も特別に足を突っ込んでる身だしな。
そこら辺の割り切りは一般人よりも出来るタイプだ。彼女がああいったのは、多分このままぶつかったらペニーニャイアンがどうなるかわらないから。それよりも生きて捕らえたほうが得られる情報は多い。それにローワイヤさんだって神託の巫女がなんなのか……多分知りたいと思ってる。今まではただ『神託の巫女』という立場に乗っかってて、疑問なんてなかっただろう。
でもこうやってこの場所から離れて、そしてその乗っかってた場所が自分の手からピローネに簡単に変わってる所をみて、疑問が出たんだと思う。厳密にはまだ神託の巫女はローワイヤさんらしいが……
「ふふ……貴女のような出来損ないと一緒にしないでローワイヤ。私は選ばれた存在ですよ。その私が頭を下げる? ありえないことです。すべての者の上位に私は立ってる。あなた達は尻尾を振って私を見上げていればいいのです」
随分な言い草だ。でもペニーニャイアンは間違いなく本心でそれを言ってる。なにせ自信満々だし。彼女はこちらに扇子を向ける。何かやってくる? とか思ったが、何やらゆっくりと、全身を使って扇子を仰いでる。なんかちょっと動きがやらしいぞ。賞金稼ぎの連中が彼女の揺れてる一部分に視線が釘付けだ。
「おお……」
なんて言っている場合か? こんなときでも、本能には逆らえないのだろうか? 確かにペニーニャイアンの双丘が零れそうではあるけど……
(いやこれは……)
俺は聖剣を一振りして軽く衝撃波をはなってペニーニャイアンの動きを妨害する。衝撃波が直ぐ横を通ってたたらを踏むペニーニャイアン。動きが止まったことで、双丘に注目してた奴らが目をさます。
「俺は一体……」
なんだか今のは一種の精神支配の魔法らしい。催眠……と言ってもいいかもしれない。小賢しい真似を……ただおっぱいに注目してたわけではなかったようだ。ごめんね。でもこんな小細工でどうにかなると思ったのだろうか? 仲間割れでも狙ったんだろうけど……せめて一瞬でかけないと意味ないと思うが。
これで諦めてくれれば、簡単に捕らえられるんだがな。けどきっとそんな事はない。ならやはり、知らしめる必要があるだろう。自分が特別でもなんでもないって事を。たった一つの世界で特別でも、それよりも上がいるって思い知らせてやろう。