「もうその鋏は効果ないですよ」
俺のその言葉にペニーニャイアンがクスッと笑う。それを見た俺はまだ何か種があるのか? とおもった。でもよく考えたら、この鋏はペニーニャイアンの切り札ったわけだ。これで終わると思う方がおかしい。何か……まだある。
「さっさと壊すか」
俺はその判断をした。その何かが起きる前に、こっちが動けばいいだけだ。なにせあの鋏の影響は俺にはなかった。それは多分俺と、あの鋏の力が隔絶してるからだ。つまり、何をしてこようと、俺には効果がない可能性が高い。それならさっさと動くほうがいい。多分だけと、他のみんなは多分絶対に食らうタイプの攻撃だろうしな。最初の奴がそういうタイプだったし、次はいきなりこの鋏が自身で攻撃しだす……なんてことはないと思う。
なら次はもっと強力な呪いになるだろう。呪いの究極系がなにか……それは死を与えるものだろう。もともとがペニーニャイアンは俺たちを殺すつもりなんだ。それをやらない理由はない。
「うらあああ!!」
俺はとりあえず聖剣をふるってみた。聖剣はその強さから下手したらこの建物自体を崩壊させかねない。だからどの程度でこの鋏が破壊できるか、その見極めが難しい。だいたいあの鋏に内包されてる力自体は見えるから、それよりもちょい多いくらいならいけるだろうと目算してみる。
聖剣の刀身から放たれた光の刃が案外呆気なくバキッと鋏を真っ二つにした。
(ふう……)
俺は心の中で安心して息を吐いた。これで防がれてもしたらなんか恥ずかしいしな。よかったよかった。どうやら俺の目算は当たってたらしい。まあ刀身から放たれた刃は鋏を砕き、さらにその先の物や壁もえぐったが、この程度なら上出来だろう。
「まさか……そんな!! ありえません!!」
そういって鋏に近づいていくペニーニャイアン。そんなに鋏を壊されたことが信じられないのか? まあ切り札だったのなら、そうなるか。しかも何かやる前に先んじて壊されちゃあな。見せ場がなかったも同じだ。そもそも出てきてずっと床に転がってただけだし……
「ははは……本当に……壊れて……」
「わかりましたか? 降伏してください。貴女では自分には勝てない」
「なぜ……なぜあなたの様な人がローワイヤなんかに」
なぜって言われても……困る。別段何か特別なことがあったわけじゃない。けどローワイヤさんはこういうよ。
「運命です。運命が私を選び、そしてあなたは選ばれなかっただけですよペニーニャイアン」
「そんな……私は見捨てられたというの?」
今までの力強い声とは違う……小さな声だった。彼女は鋏のそばに座りこみ、うつむいてる。こちらからは彼女の頭頂部が見えるだげで、表情はわからない。
「私は……私は……」
そんなことをぶつぶつと言ってるペニーニャイアン。これ以上彼女が何かをしてこようとする気配はない。確かにあの鋏が切り札だったらしい。
「捕えましょう勇者様。今のペニーニャイアンは無力です」
「ああ、でも警戒して、近寄るのは自分だけで行くよ」
確かに今のペニーニャイアンに戦意はないが、だからってあの扇子とかを手放してるわけじゃない。それに魔法だって別に使えないわけではないだろうし、警戒するなら俺がいくべきだろう。俺なら大抵のことは対処できる。
「私は捨てられてなんて……私が捨てられるなんて――」
次第にはっきりと聞こえるようになっていく声。近づくと、彼女が折れた鋏の片刃を持ってるのが見える。危ない持ち方してるが大丈夫か? とか思ってると、力の気配を感じた。
「――ないの」
「っつ!?」
頭の後ろ、完全な死角からの攻撃だった。そこには黒い鏡が出現してて、さらにその中から鋏の片刃が出てる。そうきたか……でもそれも失敗だ。二度目はない。俺はそう思ってペニーニャイアンの体を拘束するために腕を伸ばす。でも鋏の刃は二個あった。
「その命を太陽に捧げない。私のためにね」
そういうペニーニャイアンの手元には俺の方に繋がってる鏡とは別にもう一つ鏡がある。そしてそれも刃を通してる。
「かはっ……ペーニャ……なんで」
視線がペニーニャイアンの後ろへと向く。そこにはピローネが床に倒れようとしてるところだった。彼女の胸の中心くらいに鋏の残骸が突き刺さってる? いやおかしい。まるであれは心臓から外に出てきてるような……そんな感じに鋏のもう一対の刃が顔をだしてた。