ぐちゃぐちゃ、べぎべき――そんな音が響いてる。
「うえっ――」
誰かがそんな声を出した。あれは……玄関で見た時よりもはっきりと見えてるからな。戻したくなる気持ちもわかる。あの時はまだ壁で完璧には見えなかった。
でも今は何も遮るものはない。いや、一応砂獣の体でもろに見えてるわけじゃないだろう。でも床に広がってる血はもろに見えるし何か時々、人の部位というか、目玉がごろッと転がってたりするからな……髪の毛がついた肉片が飛んでたり……ある意味で生々しさがヤバイ。
そしてある程度砂獣が食べたと思ったのか、空中に残ってたピローネの下半身も落ちてきた。そしてそれに再び二匹の砂獣が群がる。
「どうして……なんの意味がある?」
俺はペニーニャイアンへと向かってそう言ってた。すると脱力してたペニーニャイアンが薄気味悪い笑みを浮かべてこういうよ。
「すぐにわかりますよ。早く離してくれませんか?」
「馬鹿言うな」
「これは親切心なんですけどね」
「なに?」
ペニーニャイアンが何をいってるのかよくわからない。すると、ピローネを食べてた砂獣に異変が訪れる。何やら奴らの黒い甲殻にひびが入り始めた。それでも一心不乱に砂獣はピローネの体に群がってる。一体何か?
そう思ってると、その亀裂はどんどんと大きくなって、目を開けてられないほどになった。普通なら……な。でも俺の体は普通ではない。ちゃんと意識すれば、それに対応してくれる。
(形が全く変わってる?)
砂獣としての進化でもしてるのかと思ったが、強烈な光の中で砂獣はその体を全く別のものにしてた。しかも二匹がまとまってるような。
シルエットだけ見えるが、なんか人の体をしてるようにみえるぞ。次第に光が収まっていく。すると、銀色に光る体が姿を現す。
「なんだあれ?」
「砂獣……なのか?」
賞金稼ぎの誰かがそんなことをつぶやく。でもそれは多分、ここにいる誰もが思っただろう。なにせ目の前の存在は二本の足で立ってる。
身長は多分ピローネと同じくらいだ。ようは子供のよう。だが、その体は銀色の装甲でおおわれてる。そして背中には二本の透明な羽がある。さらに頭にはさっきの蟻型の砂獣のマスク? が顔の半分以上を覆ってる。見えてる口部分は人の口のようだけど……中身が普通なのかは判断できない。
長いまっすぐな銀髪が床に届くほどに伸びてるのも特徴的か。あれはピローネなのか? でもピローネは確かに死んだはず。
「成功です。さあ、私を助けなさい!!」
そういうペニーニャイアンはあの謎の存在に手を伸ばす。すると一瞬にしてさっきまでいた場所から奴が消えた。そして腕に伝わる衝撃――
「ぐっ!?」
――俺はこの世界で初めてまともな攻撃を受けて吹っ飛ばされた。