「おい! これ以上はやばいぞ! ピローネを止めろ!」
ピローネの動きがどんどんと人間をやめていくような動きになっていく。俺が切り伏せても、すでに気にしてない。一瞬で治ってるわけじゃない。血をぼたぼたと流しなからもそんなことに一切執着しなくなってきてる。
当然だけど、すでに何回か声をかけたが、ピローネは「グルルルル」と獣のように唸るだけになってる。すでに俺の言葉を認識してない。ただ、目の前の敵……障害を排除するためだけに動いてるみたいだ。
だからこそ、俺はペニーニャイアンへと声をかけた。もしかしたら彼女の声はまだ届くかもしれない。でも……
「なぜ……止めるのですか?」
「お前!! このピローネをみても何も思わないのか! こいつ、すでに理性がなくなってるぞ!!」
ピローネはどこを切り飛ばしてもすぐに向かってくる。それは既に生きてるか死んでるか分かったものじゃない格好になっても……だ。腕がブランブランとしてたって関係ないし、首が半分切れて、振り子のように頭が揺れててもお構いなしだ。むしろこれ幸いと首を長くして噛みついてきたくらいだ。
さらに切れた腕の先から新たな腕を生やしたりして……傷口から肉体の一部が出てくるようになったせいでその姿はもう……人とは呼べなくなってる。
「わたわたわたわた――ごろごろごろごろ――す!!」
言葉も忘れてただ襲い掛かるだけの存在。こんな姿を見てなんとも思わないのがペニーニャイアンか。最初から、奴にとってはローワイヤさんもピローネも神託の巫女を演じさせる道具でしかないと……
「力が高まってるのが分かりますよ。本能を理性が邪魔してたのなら、ちょうどいい。際限なく高まる力はいずれ貴方を超えるでしょう」
そう言って扇子で口を隠してほくそ笑む。この魔女め。まだそんなことをいうか……俺はさすがに怒ってるぞ。
「勇者様!!」
「大丈夫ですから、どうか女性の人たちは一瞬でいいから目を閉じててください」
俺は両手で聖剣を握り仁王立ちになり、体の中心から少し右側に聖剣を上に向けて構える。ただ直線的なピローネの攻撃。そしてその後ろで余裕ぶってるペニーニャイアン。
いまここで現実を教えてやる!! 聖剣に再び光が集う。そして次の瞬間、ピローネは吹き飛び、半身が消失した。そしてその余波はペニーニャイアンまで届き、いや、この建物の壁さえも吹き飛ばして夜の明かりをのぞかせる。
涼しい風が肌を凪いで、空気の循環でもうもうと立ち込める埃を外へと流していく。
そして穴が開いた壁のそばにピローネとペニーニャイアンが倒れてた。
「すごい……」
誰かのそんな声がきこえた。