「我はゼラバラバファ・バン・グルダランファ13世である。情けないことに私は中央を離れるしかなかった。逃げて来たのだ」
王様のそんな言葉に少しだけざわざわとざわめきが起る。なにせこんな状況だからね。今まさにアズバインバカラへと砂獣の大群が押し寄せてくるかという所だ。それなのに士気を下げるようなことは悪手と言わざる得ない。でももちろん王様だってそんな風にしたいわけじゃないんだろう。ここで終わってるわけではない。まだ王様の言葉は続いてる。
「情けない王である。それは認めよう。だが、まだ終わらぬよ。皆の力を貸して欲しい。そして宣言しよう。我はもうこれ以上逃げることはない。皆と共に戦う決意をした! だから皆も身勝手かもしれぬがどうか一緒に戦ってくれ!」
それは王様……王族として良い演説だったのか……どうかは俺には分からない。何せ王様が平民に懇願してるんだからね。ある意味で情けないと思われてもおかしくない。そうなって心が離れたり……ね。まあけど、そもそもがアズバインバカラの人達が王様を意識してたとも思えないんだけど……なにせ地方にとっては王様なんかよりも領主の方が現実感がある。王様なんて存在は雲の上の存在だ。
そんな人達が単純に自分達を頼ってると思えば……悪い気はしないだろう。その証拠に、少しの間を置いて、雄叫びが上がった。いや、完全に誘導されてたけどね。実際兵士や賞金稼ぎの連中はどうしたら良いのか……って感じだった。でもそこに軍の多分偉い人だろう。その人が最初に声を上げた。
「うおおおおおおおおおおおお!」
って感じでね。そしたら皆が続いた感じだね。変な空気で戦うよりも、高揚して戦った方が良いって皆知ってる。だからこそ、まあとりあえず盛り上がっとこう――って事なのかもしれないが……王様は皆の応えてくれたような声に震えてる。きっと感動してるんだろう。無粋なことは言うまい……
「出撃!!」
王様のその声と共に更に盛り上がる。そして皆が血浄を使った。あれだけの大群だからな。出し惜しみしてる場合ではないか。でも……実際かなり絶望的な数なんだよな。今まであの数はきっと相手にしたことはないだろう。ジゼロンワン殿が減らしておいてくれたとは言え、奴等は減らない。寧ろジゼロンワン殿と同じペースで倒せないのなら、砂獣の大群の波にきっと飲み込まれる。
それだけのペースで奴等は補充されるとみて良い。それとも、見えないどこかでジゼロンワン殿が奴等の補給を断ってくれてるのかもしれない。そのくらいならあの方ならやりかねない。でも……希望的観測だな。なるべく犠牲を出さないように俺は動くつもりだ。
なにせここは通過点……王様の権威を示すための道具だ。さっさとジゼロンワン殿に出て貰って砂獣を一掃して貰うのがいい。だからほどほどに戦って、でもやっぱりピンチになって、そこで王様にジゼロンワン殿を出して貰う。30分くらい頑張れば良いだろう。
「私も出ます」
そう言って俺も聖剣を抜いて飛び出した。軍を抜き去り、景気づけに派手な一発を砂獣達にたたき込む。