「さて、そろそろと目覚めて貰おうか？」
ペニーニャイアンをあしらいつつ、自分はそう言って手に力を貯める。別に危険な力じゃない。もっと優しくて、暖かい奴だ。つまりは回復魔法である。
「目覚めさせるって、更に痛めつけるって言う……そういうの、好みよ」
「別にそういう事じゃない」
なんかペニーニャイアンが勝手に彼女面してくる。とりあえずペニーニャイアン五月蠅いし、役に立たないと分かったから、後ろにやっておこう。一応他にも何人か居るから、その人達に間に入って貰う。皆さんペニーニャイアンの扱いに困ってるから、なるべくペニーニャイアンが居たらその近くに来ないようにしてるんだよな。そのせいでいつも自分の側に居ることになってる。
流石にこれまで教会という物に頼ってきた世界だ。それをいきなり頼りにするな――それをやめた――とか言われても、なかなか皆さんがそれを本当の意味で受け入れるには時間がかかるだろう。だからなるべく、皆さんペニーニャイアンには関わろうとしない。
どう扱っていいかわかんないからだ。アズバインバカラでの地雷になってるよねこの人。でもそんなのお構いなしに振る舞ってるんだからある意味凄い。気づいては居ると思うが……でも流石に今回は一応壁くらいにはなってくれるらしい。
「ちょっと！ 何するのですか！ 私はもっと勇者様の側にいます！ そうそう、あの蜘蛛は危険よ。私が居たらきっとあの蜘蛛も大人しくなるはずです！」
なんか適当なことを言い出したな。自分は重要な人物だと、今でも思いたいんだろう。けど……この蜘蛛が目覚めてしまえば、ペニーニャイアンの本当の価値を教えてくれるだろう。それ……のことは考えてはないだろうな。ペニーニャイアンはただ本当に自分に価値がある……と思ってる。
でも自分もジゼロワン殿もペニーニャイアンよりもこの蜘蛛人間は立場的には教会の上の方だと思ってる。なにせ馬車で来たのもそうだし、この蜘蛛人間の方が人間の普通の教会の信者を使ってた。この姿で、しかもその術で変異したのに意識まで保って活動してる化け物だ？ いくら生きてるのかもわかんないくらいの存在。それこそ教会の頂点に君臨してるらしい何人かの内の一人だとしてもおかしくない。
「危険だというのなら問題ないですよ。自分が護ってますから」
「…………私のために……」
はい？ イヤ違いますよ。皆さんを護るために……です。やっぱり蜘蛛人間を尋問するためにそれなりの立場の人達が来てるからね。ペニーニャイアンの為じゃ決してない。けど……なんか両手を顔の前で合わせて口をウニウニさせて耳が真っ赤なペニーニャイアン。
もう完全に自分の世界に入ってるなこれ。まあ大人しくなったのならいいだろう。とりあえず回復魔法を蜘蛛人間へと施して奴の覚醒を促した。
「まぁ、私は安い女ではないですけど、貴方のこれまでの活躍と力を観るに、見込みはあると思うわ。良かったわね、認めてあげるわ」
なんかそんなことをペニーニャイアンが言ってるが、誰もその言葉を聞いてる奴はいなかった。
