「だんだんとわかってきたぞ」
そういった魔王。そして振り抜かれる拳が僅かにアイの髪を揺らした。当たっては無い。当たっては無いが、それは十分に肝を冷やす役割を果たしたと思う。なにせ、魔王が振り抜いた拳の一拍後にドゴォン!! という音が響いたからだ。まともに食らったらやべぇ……と想わせるには十分な威力だった。
「何がわかってきたと言うんですか? 当たってませんよ?」
そういうアイだけど、その頬には一筋の汗が流れてる。きっともしかしたら……という思いがあるんだろう。もしかしたら意味わかんない理屈でナノマイクロデバイスの攻撃であった体の自由を奪う――というのを克服してるからね。だからこそ……不安があるんだと思う。
実際……
{まだ大丈夫ですね)
――とかアイは思ってるが、その誤差は少しずつ狭まってきてる。感覚じゃ無くて、事実としてね。実感として、私だってアイの瞳を通して観てるからヒヤッとするもん。さっきまでははっきり言って、まったく全然当たる気配なんて無かった。だからこそ、アイは優雅に歩いて魔王が振り抜くタイミングに合わせて自分の攻撃をあわせても全然大丈夫――という安心感があったのだ。でも……今は違う。今はもしかしたら――という思いが頭をかすめてる。
冷静にいようとしてるが、その動きが警戒してるって物語ってる。だってさっきまでは魔王が攻撃モーションに入っても避けるなんて事をしなかったのに、今は万が一に備えて避けてるもんね。それってつまりはアイだってもしかしたら……と想ってるって事だ。
そして更にアイを焦らせてるのが、アイの攻撃は未だに全然当たりそうもないって事だ。いや、もっと連続で攻撃をすれば良いんだけど、アイは追撃をしない。そのせいで当たってないんだと思うんだけど……
だってまだ魔王は完全にはその認識改変というか誤認というか……それの感覚を完全には掴んでない。でもその感覚のずれは確実に縮まりつつある。ならいましかリスクはとれないと思うんだが? 今、魔王は感覚というか、勘でアイの攻撃を避けてる。けどその感覚のズレが修正されたら、普通に避け出すよ。そうなったら、魔王に勝てる要素なくなると思う。
ご丁寧にリスクをとらずに一発一発確実に……なんてやってる場合じゃ無い。もっとみっともなく必死になれよ! ――と言いたくなるが、私は別にアイに勝って欲しいわけじゃなく、適度にどっちも消耗して、話し合いに持って行ってくれたらなっ思ってるわけだ。最悪私が二人のセキュリティを突破できる時間を稼いでくれたらそれでいい。
けどその均衡もそろそろ本当に終わりそうだね。