おじさんはまっすぐにこのイシュリ君が捕まってた場所へと向かってる。一応ついていってるんだけど……先に声をかけたほうがいいか判断に迷うよね。だってこの人が行ってる先にはすでにイシュリ君はいないわけで……でもここで私が話しかけても混乱させるだけじゃない? ともおもう。
だからとりあえずついていってる。おじさんは体調悪そうだけど、早足でイシュリ君が捕まってた部屋へと向かってるからそんなに時間はかからないだろう。せいぜい三分くらい? まだ勇者もサーザインシャインインラの外にはつかないだろうし、止血くらいしかできないドローンでは焦ったところで意味ないからね。
それに実際、今の状態では勇者が間に合うとも……ね。それなら最後くらいは親のもとで息を引き取らせるのも優しさかなって……
「そんな……イシュリ……一体どこに!!」
イシュリ君が捕らえられてた部屋まで来ておじさんはすぐにその異変に気づいた。まあ気づかないわけないよね。なにせ扉くぐったらすぐに見えるし……見えるはずだからね。でもそこにすでにイシュリ君はいない。ならそう叫ぶよ。
「一体なぜ……私に黙って移動を……まさかもうすでに生贄へと……早すぎる」
なん物騒なことをおじさんはブツブツと言ってる。そして膝から崩れ落ちて顔を覆った。
「なぜ……こんなことをやったんだイシュリ」
それは責めているような口調ではなくて、なぜなのか本当にわからないって感じの声だった。まあ実際、自分の子供がこの街の要である結界を破壊したらそう思うよね。てか本当ならそんなことは出来るわけなくて、でも実際に起きてしまって下手人として息子が拷問を受けてる……この人にとってはこんな事実は青天の霹靂だったろうね。
ここしかないね。
『大丈夫ですよ。イシュリ君はまだ生きてます』
「誰だ!?」
いきなり聞こえた女の子の声におじさんは心底驚いてる。当然だね。なにせ似つかわしくない声が響いてるのに、その声の主の姿はみえない。これを警戒しないやつなんていないだろう。いたら相当の楽天家だね。
『私のことを信用出来ないのは仕方ありません。けどすでにイシュリ君は私が助けてます』
そういって私はドローンの光学迷彩を解いて姿を表した。それに驚くおじさん。けどすぐに「イシュリ!!」と言ってイシュリを抱きしめた。
「こんなになって……」
その瞳には涙が見える。親子の感動の再開だね。けどイシュリ君は相変わらずどこか遠くを見てて、お父さんの言葉なんて届いてない。それがちょっと心にズキンと響くよ。