『移動しましょう』
「確かに、いつまでもここにいるのは危険だ」
『危険というか、その危機はすぐそこまで迫ってるようです』
おじさんはすぐに理解してくれて助かるが、危機意識的にはあと一歩だったね。すでにこちらに向かってきてる奴らがいる。それは同じ服を着て武装してる一団だ。つまりはここサーザインシャインインラの軍人たちだろう。
水の街らしく、軍の人たちの防具もアズバインバカラに比べたらとても涼やかで美しい。アズバインバカラは黒かったけど、ここの人たちの防具は水色してるからね。なんか見た目重視してそうな防具だ。
そいつらの会話も私は傍受してる。
「先輩、この街はどうなるんでしょう?」
「俺たち、戦うことなんかできないっすよ」
「大丈夫だ。ここはとても重要な街だ。教会が助けに来ないわけないし、他の街だって既に動き出してる。俺たちの出る幕なんてないさ」
そんなことを話してる。軍の人たちであろう三人はなかなかに情けない会話をしてるね。軍なんだよね? なんか聞いてる限り、彼らは一回も戦ったことがないような?
(いやいや、そんなわけないでしょう。いくらこのサーザインシャインインラが重要な場所だって言っても、そこまでおんぶにだっこなわけが……)
ないよね? でもいまここで私の存在に気付いてない彼らがそんな私を惑わすようなことを言う必要ってないんだよね。つまりは本当のことってことだ。一回も戦ったことないのなら、簡単に昏倒させられるんじゃね? って思うわけだけど……
「それにしたってこのこの先にいるガキは許せえねぇ」
「ああ、もう殺したいくらいだ」
「でも、どうせ殺されるんだろ? 噂で聞いたが、波の中に放り出すって」
「「はは、それはいいな!!」」
ゲラゲラと奴らは笑ってる。ちょっとイラッと来るよね。ただのお飾りのなんの約にも立たない兵士のくせして……てめえらの頭にこのサソリぶっこむぞ……
私たちは移動して、壁沿いで息をひそめてる。イシュリ君はおじさんが背負って移動させることになった。負担を考えたらドローンで運んだほうが絶対にいいけどね。だってお世辞にもおじさんは体力があるようには見えない。既に顔色悪かったしね。
イシュリ君は子供だと言ってもそこそこがっしりしてるしね。まあけど、そこはきっと父親の意地ってやつがあるんだと思う。だから何も言わなかったよ。
『ここの兵士は訓練もしてないと?」
「ああ、奴らはただのお飾りみたいなものだ」
『なら簡単に気絶させられそうですね。その言葉、信じますよ」
「息子のために嘘をつく必要がどこにある?」
『まあそうですね』
どうやらここサーザインシャインインラの兵士たちは訓練だってしてないらしい。もうなんのためにいるのかわかんない。必要な物資は水との交換で手に入るし、砂獣の対処は教会がやってくれてるらしい。
至れり尽くせりだな。まあそのせいで今大ピンチなんだけど。
私はドローンを三機近づけて、歩いてる三人の兵士の背後へとソロリソロリと近づける。一応多少の音はしてるはずなんだけど……奴らは自分たちの会話に夢中で気づかない。なので遠慮なく後ろからバチッと電撃を浴びせてやった。
なんともぬるい奴らだったよ。泡吹いて三人とも倒れてる。そうして私たちはこの地下から脱出した。