「お初にお目にかかります私は――」
そんな挨拶を早速してる勇者。アズバインバカラから彼は急いでここまで来たはずだけど、汗一つ、息一つ切らしてない。知らなかったら、元々ここに住んでたかのようだ。実際、あんまりおじさんも説明とかしてないから、この屋敷のお手伝いさんのおばあさんはそんなふうに思ってると思う。
だってさっきから『旦那様、街の医者に任せるなんて……坊っちゃんの為を思うなら――』とか言ってるからね。そこらから急遽呼び寄せた……とか思ってるみたいだ。ついでにいうと、どうやらこの広い屋敷をおばあさん一人で管理してる……ってわけじゃないらしい。
他にもたくさん使用人はいたけど、どうやら砂獣が町を包囲した……と伝わると、皆さん避難したらしい。そしてその際、なんとこの屋敷の中の金目の物をもっていったらしい。どうりで色々とひっくり返されたあとがあると思った。
一応おばあさんは片付けをしてたようだけど……流石に屋敷中をひっくり返されたようになってるから、一部分しかきれいになってない。でもおじさんは別にそんなことは気にしてない。懐が深いのか、それとも今はイシュリ君のことで頭がいっぱいだからなのかはわかんない。おばあさんは憤慨してたけどね。
お世話になっておいて、危なくなるとすぐに逃げ出すなんて――だってさ。まあ逃げるだけならまだしも、屋敷の中漁ってるからね。擁護は出来ない。けどそこに突っ込むやつがここにいないけどね。
一応玄関近くはそこそこきれいになったけど、中に進むに連れてそれはひどくなっていく。でも勇者は別に全く気づいてませんよ――的な振る舞いしてる。そしてたどり着いたイシュリ君の部屋。まあここは案外無事だったみたいだね。
子供の部屋だからあんまり金目のものがないと思われたのかもしれない。これが女の子なら一杯装飾品とか、それこそ服とかにお金をかけてそうなイメージになるけど、イシュリ君はどうやらやんちゃな男の子らしいからね。
金目のものなんて持ってないと思われても不思議じゃない。それに男の子だからこそ、部屋の飾りとかにも壊してもいいようなそこそこのものしかなさそうでもある。
「それでは失礼します」
イシュリ君のそばによって膝をつく勇者。一応ここまで来るまでに私が……というかドローンがスキャンしたデータは渡してある。さてさて、勇者はどうにか出来るだろうか? 私がそんなことを思ってるとなにか口ずさむ勇者。すると足元に金色の魔法陣が浮かぶ。どうやら勇者の力的な物を使うみたいだね。
今や勇者は何に対しての勇者なのかわかんないんだけど……その力は失われてはない。部屋いっぱいに現れる光の粒子におじさんもおばあさんも声にならないようだ。