「大丈夫? 家まで送ろっか?」
最寄り駅について壁際に行って平賀式部は野乃野足軽にそういってる。でも流石にクラスメイトの女子とこんな時間に一緒にいるところを見られる……と言うのは避けたかった野乃野足軽。だからその提案は前のめりになって断る。
「いや、それはホント、大丈夫だから。ここまで付き合ってくれだけでもありがたいし……そんな家までなんて……むしろこっちが送る方だと思うし……」
なにせ元々海まで距離があって、海にいる時点で日が沈んでたんだ。つまりは今はもう完全に夜である。それなのに男が女の子に自宅に送られるって……普通は逆だろう。それが世間の常識だと野乃野足軽は思ってる。しかもしかも平賀式部は美人なのだ。そうなると夜で一人で美少女が歩いてるとなる、何がおきるかわからない。
だからこそ、一応そんな事を野乃野足軽はいった。ここは最寄り駅だし、そもそもが野乃野足軽が通ってる高校は徒歩圏内だ。そしてここは高校からでも最寄り駅だから、使ってる生徒はたくさんいるだろう。
となると、観られる可能性は高い。部活終わりの生徒とか、チラホラ見えるし、もしかしたらバイト終わりの生徒とかもいるかも知れない。だから結構ソワソワしてる野乃野足軽。けど平賀式部は逆に全くそんなのはきにしてないようだった。
むしろさっきの野乃野足軽の発言が気になってるようだ。
「私の事送ってくれるの?」
「この時間に、一人で帰らせるのはやっぱり危ないし……それに平賀さんだし……」
「私だし?」
「いや……ほら、平賀さんはその……綺麗だから」
恥ずかしがりながらも、野乃野足軽はそういった。どうやら平賀式部はあんまり自分の容姿に関心がないようだ。けど、学校でも有名なくらいなその容姿だ。暗くなって変なやつが現れてないとも限らない。
「それは世間一般的な感想? それとも野乃野くんもそう思ってるって事?」
「ええ? それは勿論世間一般的な感想だよ!」
「そうなんだ」
あれ? なんかちょっと不満げになったような……と野乃野足軽は思った。でも流石に本人を前にして、「自分もそう思ってる!」と宣言できるほどの心臓ではなかった。
「大丈夫ですよ。野乃野君は具合が悪そうだったんだから、早く帰って休んだ方がいいです。私は電車ですぐですから。所謂タワマンというやつなので、駅構内からすぐにいけます。
「あっ、そうなんだ」
「はい。それじゃあまた明日、学校で」
そう言って、頭を下げる平賀式部。野乃野足軽も気恥ずかしげにも「また明日」と言う。けどなんか二人共動かない。なんかチラチラと平賀式部が野乃野足軽の事を見てるからだ。これでさっそうと帰れるほどに鈍感なやつでは野乃野足軽はなかった。
(なにかあるのかな?)
とか野乃野足軽は思ってる。さっきからなにやら手の中のスマホを見てるような……
「あの、野乃野君。良かったら連絡先、交換しませんか?」
「ええ!? 自分と?」
自分自身を指さして野乃野足軽はそういった。なにせ信じられなかったからだ。何故にこんな美少女でクラスでも一目置かれてるような存在の平賀式部がクラスでも冴えない部類の野乃野足軽と連絡先を交換しようとするのか……全くもってわからないからの純粋な反応だった。
「イヤですか?」
上目遣いでそう言われて、断れるような野乃野足軽ではなかった。いや、今のを断れる男子高校は世界中探してもいないだろう。