「も……もうダメだ……」
眼の前で仲間だった奴がその顎で上半身と下半身が分かれてる。残された腹からは真っ赤な血が吹き出して、そして臓物がなんかうごめいてた。それは一つだけじゃない。そこら中にそんなのがある。
ここサーザインシャインインラを囲んだ砂獣達がついに攻め込んできた。俺たち兵士は勿論だが駆り出されることになった。故郷を守るための戦いだ。それに否を唱えるやつなんてのは……残念ながらこの軍にはたくさんいる。なにせ一応兵役があるが、色々と賄賂や親のコネ、そんなのを使って楽をしてる奴等がたくさんいるからだ。
そしてそんな奴等を批判するどころか、大体の奴等はそんな奴等の下に行って、気に入られようとするんだな。気に入られたら、色々と自分自身も優遇を受けられるからだ。いくら真面目にやってたとしても、そういう親の力、それにコネ……どれだけ訓練や仕事を頑張っても、そんな物では評価されることはない。
だからこそ、皆が権力に群がっていく。そして真面目にやるやつなんていなくなって……軍なんて名ばかりのチンピラ集団でしか無い軍隊となった。
「おい!! 俺様を助けろ!! 俺様を助けたら親父に言って、望みの地位をやってや――」
そんな事を言ってたいつもふんぞり返ってた奴もただの肉塊になった。なんでも手に入って、金で悪事をもみ消して、そして女を大金で買うようなやつだった。酷いやつだ。その瞬間を見たら吐き気よりもある意味でスッキリとした。
でも周囲には同僚たちの躯が転がって、嫌なニオイが立ち込めてる。そして自分自身もその中に加わるのは時間の問題だ。前の奴等はあらかた居なくなってしまった。いや後ろか? ただ橋の所で砂獣がひしめき合ってて、もう命令形等も滅茶苦茶だ。既にきっとサーザインシャインインラの中央の宮殿まで砂獣は進んでるかもしれない。
逃げる場所なんてなくて、そしてこの光景を見たらわかる。この街は終わりなんだと。誰もが絶望して逃げ惑い、そして武器をその場に落としてる。俺も変わらない。震える体にはもう、闘志なんてもの一切ない。ただ頭では「死にたくない」と連呼してる。
でも死は迫ってくる。理不尽に……そして絶対に。自分は弱者だとは思ってたが、いまここで世界の真実をしった。砂獣という圧倒的な力と数には人なんていう生命体が弱者なんだ。このとてつもない流れ――『波』――には逆らうことなんて出来やしない。
「はは……はははは……」
乾いた笑いが漏れる。なんで笑ってるのかも自分でもわからない。けどもう笑うしかない精神状態なんだろう。そんな自分に砂獣がぶつかってきた。
「ぐふっ!? がはっ……」
その巨体にはねられて、地面を転がり、何かにぶつかった。それでもまだ生きている。全身がいたい。さっきの一撃で殺してくれれば痛いのなんてなかったのかもしれないのに……最後までなんて自分は運が無いんだろうと思った。
ノシノシ、何かが背後で動く。どうやらぶつかったのは別の砂獣のようだった。そういうこともあるだろう。なにせここには砂獣がたくさんいる。そして、砂獣がその口を向けてくる。どうやら頭をボリボリと食べようとしてるらしい。
(これで……終わりか……)
一体自分の人生は何だったのだろう――そう思った。小さいときから家の事で馬鹿にされてきた。頑張って兵士になっても、そこですら権力が幅を利かせていた。いくら努力をしたって、それを見てるやつなんてのはいない。
誰もが努力じゃなく、賄賂や悪事を頑張るような……そんな街だった。見た目だけがきれいな、中身真っ黒な街がここ、サーザインシャインインラだ。だからこそ……
(こんな街、こんな終わり方が相応しいのかもな……)
なんのために守ろうと思ってたのか……血が広がる地面の中で思った。砂獣の臭い息がすぐそこにある。自分が死んだ後にはきっとここの住人がすぐに追ってくるだろう。そう思って目を閉じる。
けどいつまで経っても死は来ない。それどころか、なにやら暖かな何かが自分を包む。
「なに……が?」
目を明けるとそこには砂獣の死骸が広がってた。自分たちがまるでなぶられるだけだった砂獣。それが一瞬で数十体は躯になってる。そして返り血一つついてない彼が光の剣を携えてこういう。
「大丈夫か?」
彼こそが、希望だと思った。