「この力があれば、もっと沢山の人達を救うことができるはずなのに……何故に教会はそれをさせてくれないのでしょうか? 誰もがこの力を使えれば、きっともっと安全に日々を過ごすことができる」
メリアスさんは回復魔法を受けながらそんな事を漏らす。自分自身のために力を求めるんじゃなく、誰かの為に……沢山の人達の為に真っ先にそう思えるのは彼の人間性を表してると思う。本当に立派な人だ。
勇者の自分も見習わないと……とも思うが……この世界では自分が守るべき人たちは……いや、かかわった人たちは勿論守りたいと思ってる。けど、実は自分はもう勇者という立場に縛られたくはないとも思ってるというか。
そんな自分は彼を見てるとかつての自分を見てるようで、眩しく感じる。ただ純粋に誰かの為に……そう思ってた時期だってあるから。
「教会を養護する気はないですけど、魔法という力は便利だけど、やっぱりどんな力も使い方次第ですから。どんな力も悪いやつが使えば悪い力になる」
「確かにそうですね。それには自制が必要だし、教育もきっと必要になるんでしょう。でも我々はその悪い奴らに力を独占されてる状態では?」
「確かに……それはまずいですね」
いや本当に。そのバランスが全く取れてないのがこの世界だよね。いや一応はこの世界はここまで生存できてるから、バランスは取れてるのか? いやでも……それって結局は教会の裁量だったのかもしれない。
なにせ今回、奴等は波までも起こしてる。もしもだ。もしもこれまで砂の下に沈んでいった街とかが教会が起こした波で沈んでたとしたら……それは奴等許されないことをやってたことになるぞ。だって波ってこれまでは自然発生するものだと思われてた。
でも今回のことで教会は波までも起こせると……それがわかったんだ。これまでの犠牲、それの生贄になってきた人たち……それら全ては教会の思惑……そして計画の中だったとすれば……それは……
「とりあえずはこの波を乗り越えないといけません。今はそれだけに集中してください。今はもう、あなた達だけが頼りです」
「そんな我々なんて、勇者様達が居なければどうにも……それにジー殿が砂獣の襲撃位置から弱点までも的確に教えてくれるので助かってます。本当の英雄はあなた達です」
そういってなんかメリアスさんが頭を下げると、その部下の人達も自分に向かって頭を下げる。イヤ本当にやめてほしい。自分はこの世界でも勇者になるなんてイヤだ。その世界の勇者はその世界の者がやるべきだと思う。
だって自分はそのうちこの世界を去る。それは決定事項だ。ここにとどまる選択肢なんて無い。だからその時、きっとこの世界の人たちは絶望とまでは言わなくても、がっかりするだろう。でもこの世界の者がこの世界の希望になってれば、そんなことは起こり得ないわけで……だからここで勇者になるのは、彼でなくちゃいけないとおもう。そういう風に演出してもらうようにG-01殿には言っておこう。
計画では自分の活躍を映像で様々な場所にみせるってことだったが、代わりが居るんなら自分的にはそれに越したことはない。
『第三波が迫ってますよ。それと上層部はこっちにつくみたいです』
そういうG-01殿。ようやくここサーザインシャインインラの上層部は教会に見捨てられたと自覚したらしい。