さてさて人死にうるさい勇者の許可も取れたことだし……まあ死なせないって条件でね。なので早速砂獣を一体見逃してもらった。勿論ここは事故が起きないように1番オーソドックスな砂獣である蟻の砂獣だ。実際のところ、蟻の砂獣なんてのは勇者が移動した風とかで切り刻めるから、こいつが中に入ってくるのはおかしいんでは? みたいなやり取りをしたけど、そこは横から入ってきたアイに「彼らにはそれを判断する術はありませんよ」ということだったので、普通に蟻の砂獣にした。
確かに私や勇者は、それこそ大抵の砂獣なんて小指だけで倒せるなんてのはわかってるが、現地の人達にはわかんないことだ。寧ろそんな事をいったとしても信じてもらえない可能性のほうが高い。
私達は自分たちの力が逸脱してると、わかってるがここの人達はわかってはない。それこそアズバインバカラやジャルバジャルの人達はわかってるだろうが、サーザインシャインインラの人達はわかってない。
だから違和感なんて持たれないでしょう。
(今がベストタイミングだね。隊長さんも前に行ってるし)
ここで懸念すべきなのは教会の切り札の武器を持ってる隊長さんだった。今の彼なら1番オーソドックスなこの砂獣なら一振りで切り殺せるからね。でも彼は今、一人で最前線というか、もう前線とか関係なく砂獣に突っ込んでは切り刻んでる。
多分ここは勇者に任せて大丈夫だと判断してるんだろう。自分はなるべく突っ込んで砂獣を引き寄せて、できる限り多く殺す……いや道連れにしてるといってもいい。
そう、道連れだ。きっと隊長さんはわかってる。このままではどこかでやられるか、その体が限界を迎えるかって事を。そもそもが隊長さんが市民たちを守って、勇者が前に出たほうが戦略的に正しいし、彼ならばきっと今の自分よりも勇者のほうが遥かに強いということを感じてるんじゃないのかな?
それでも彼は何も言わずに前に出た。いや、勇者に護る人達を任せてはいたね。ただただその得た力の強大さに酔いしれて無謀な事をやってる? いや違う。彼はそんな人間じゃない。実際あの人を全くもって知らない私がなにかをいってもなんの説得力も無いけど、力に酔ってるわけじゃないとは思う。
それこそ私たちが考えてた事を彼はわかってるのかもしれない。この世界を護るのはよそ者である私たちではなくて、自分たちなんだ……って。そしてそれを他の人達に示してるのだとしたら……その無謀すぎるとも言える行動にも納得できる。
実際彼は私が彼の戦いぶりを市民の人達にも見せてるとはしらないだろう。けど部下の人達は見てると思ってるだろうから、その背中をみて自分に続くものが出てくれたら……と願ってはいると思う。
けど彼の部下たちは泣いてる。大号泣である。どうやら自分たちの不甲斐なさにそうなってるみたい。そんな彼らを素通りして砂獣が建物を破壊する。それによって悲鳴とかが外に漏れる。外の光に照らされて、砂獣の黒光りする体が浮かび上がって中の人達には見えてるだろう。そして赤い瞳が集まってた人達を映し出すと同時に、釘付けで映像をみてた人達は我先にと、砂獣から距離を取ろうとする。
砂獣はその口の牙なのか歯なのかわかんないがそれをガキンガキンと鳴らしてそこに居た人々に迫っていく。まさに地獄絵図って感じになってるよ。