(怖いよ……)
(返して……)
(お腹へった……)
(逃げる逃げる……)
野乃野足軽は他の犬達にも力を繋げて、その言葉を聴いてみた。すると驚愕することにどうやらどの犬も強制的? に連れられてきたようだ。
(なんだこれ? ペット誘拐犯の拠点かここ?)
野乃野足軽はそんな事をおもった。だってこれだけの迷い犬が一箇所に集められるとかある? 公園とかで偶然あって集団になる……とかなら犬の習性としてありそうではある。なにせ犬は群れを作る生き物だ。けど……これはどうみても人為的に連れてこられてる。全部リードで繋がれてるし、ここには五匹も犬がいるのになんと犬小屋がなかった。
もしもこの犬たちが飼い犬なら、犬小屋がないのはおかしい。野乃野足軽は動物たちの声を聴くことができるから、そんなことはないとすぐに分かるが、誰かに見られたりした時のために小屋くらい会ったほう良い訳も立つと思う。でもそんな事をする必要すらないということだろうか?
(なにやら犬好きが居るようですね)
(いや、そうじゃないだろ……)
アースのなんかズレた発言に野乃野足軽は突っ込んでる。アースは悪意とか感情というものにあまり馴染みがないから、そこら辺がわかんないんだろう。
(中の様子を確かめるか)
そう言って野乃野足軽は聴覚を強化する。なんでそこで透視をしないのか……とか思うかもしれないが、透視よりも聴覚を強化するだけの方が簡単だから野乃野足軽はそっちを選んだ。でもそのまま聴覚だけを強化したら周囲の音も聞こえすぎる。そして鼓膜が危ない。だから力で方向性を付け加える。今まではそれを犬たちにしてたわけだが、それを物体、目の前に家にする。
力でその家全体を包み込む。
(家全体を包み込むって結構きついな……)
(もっと繊細に力を使えるように成れば、薄く広げるだけで良いですから楽になりますよ。今は大雑把すぎます)
(訓練有るのみか……)
そんな会話をしつつ、家全体をなんとか力で包んだ野乃野足軽の耳に家の中の音が聞こえてくる。それは空調の音だったり、なにかかカサカサと動き回る音だったり、冷蔵庫を閉めるバタンという音が野乃野足軽の脳を揺さぶった……
(今のは効いた……)
(一定以上の音は減衰するように調整すると良いでしょう)
(そんな事できるかよ)
そんな細かな操作は今の野乃野足軽は出来ない。とりあえず冷蔵庫を閉めるような音、そして何かを開ける音。更に取り出したなにかを口に入れて喉を通すゴクンゴクンという音が聞こえるということはこの家には人がいるということだ。
「そろそろ良いんじゃないか? 買い手は見つかったか?」
「ええ、それぞれいい感じの犬種ですからね。欲しい人はいくらでも」
「足がつくのはまずいからな。受取場所を定めてさっさと回るぞ。置いとくのはリスクが有るからな」
「はいはい」
野乃野足軽の耳にはそんな会話が聞こえてきた。
(やっぱり犬を攫って売買してるやばい連中じゃん……これは警察に言ったほう良いよな)
(第三者に介入させるのはおすすめしません)
(いやいや、相手は犬とかを勝手に売買する程度の小悪党かもしれないけど、一般的に言ったら十分にやばい奴らだし、犯罪なんだよ。こういうのはちゃんとした組織に任せるほうがいいだろ?)
相手が犯罪してる奴ら……となったから野乃野足軽の腰が引ける。けどそれは当然だろう。犯罪者と敵対したいやつなんてのは普通はいない。だからこれは的確な判断だと言える。これはもう、ただの迷い犬の捜索ではなくなってる。けどそれでもアースは反対する。
(丁度いいじゃないですか。奴らは悪党? なんですよね?)
(そうだな……だから警察に任せたほうがいい)
(なら倒してしまっても問題ないじゃないですか)
(一応悪党だからって無闇矢鱈に暴力を振るうとこっちが犯罪者になるからな。それが法治国家って奴だ)
(大丈夫、バレなければいいだけです)
(お前な……)
こいつ、どこでそんなワードを知ったんだ? と野乃野足軽は思った。