「なるほど……そう言うことですか」
そう言ってお口を上品に拭いてる平賀式部のお母さん。お姉さん……といっても通りそうなその見た目の大人の女性はなかなかに野乃野足軽には刺激が強い。いや、別に平賀式部の母親は別段大人の色気を醸し出すような格好をしてるわけじゃない。
ただその溢れ出す魅力に野乃野足軽は気圧されてるだけだ。クラスの中では平賀式部だって大人っぽい――とか思ってた野乃野足軽だが、母親を見ると、やっぱり平賀式部は子供なんだなってのがわかる。
けど将来平賀式部もこうなるのかと思うと……将来が楽しみになる野乃野足軽である。
「こちらでも勿論捜索してましたが、犯罪組織が動いてたというわけですね」
そう言って平賀式部の母親はじっとその鋭い目を向けてくる。そんな目を向けられると野乃野足軽は背筋伸びてしまう。いやそもそもがきれいな女性にだらしない姿なんか見せたくないから、背筋はこの家に入ったときから伸びてる。けど体だけじゃなく心も……なんか伸ばしてる気になってる野乃野足軽である。
「組織というには小規模だったと思いますけど……」
なにせ二人だったしな……とか野乃野足軽は思う。組織と言うには流石に少なすぎる。組織と言うなら最低でも五人とかからでは? 役割分担を最低限はしてないと……と野乃野足軽は思ってる。
ちなみに親が求めるのに詳細を言わないわけにはいかない……と思って野乃野足軽はシャラクことこの家の犬がどんな状況だったのかとかちゃんと説明した。勿論そこで力を使って助けた……なんてのはいわない。たまたまだったとそういうことにしてる。
たまたまそこに居合わせただけ……そういうことにするしか無いってのもある。なにせ二人と言っても相手は大人だ。いや実際あの二人が何歳なのかは野乃野足軽はしらないが、年上であったのは間違いないだろう。
そんな大人に高校生の野乃野足軽が一人で立ち向かってどうにか出来る……なんて説得力がない。漫画とかではよくあるかもしれないが、野乃野足軽はなにか武術を習ってるわけでもないのだ。そんな高校生が大人二人に勝つなんて現実的じゃない。漫画やアニメとかでは主人公は複数人をバッタバタと倒していく描写がよくあるが、現実ではそんな事はできないのだ。力がなければ……
「それでも囚われた犬達を開放してくれたのは変わりません。私達に取っては恩人ですよ。それにペットとはちゃんと登録とかしてあるものですよ。それを勝手に売ったり、それこそそんな人達と取引してる人達がいる……それはやはり犯罪組織が関わっててもおかしくありません。きちんと調べなくては」
「そうなんですか……」
ただの小悪党クラスかと思ってたが、その裏には巨悪がいる……かもしれないということだった。けどそこに野乃野足軽が関わることはないだろう。そう思ってる。今はそんなどっかの犯罪組織がどうなるよりも、自分自身が大切な野乃野足軽。
実際、とても良い料理、高い料理を食べてる野乃野足軽だが、マナーとか気になって上手く食べられない始末だ。勿論平賀式部の母親は「マナーなんて気にしなくて良い」とは言ってくれてる。でもだからってガツガツ食べられるほどに神経図太くない、小市民の血が流れてるのが野乃野足軽という奴だ。