「すみません、自分は『桶狭間』、『桶狭間 忠国』です。隣のクラスなんですよ」
頭をかきながら、その大きな体をちょっと丸くしてなんとか圧迫感というか、威圧感を出さないうにと桶狭間忠国はしようとしてる。けどそんなのは無駄な努力……と言わざる得ない。なにせ通りかがる人すべてが「うお」とか「うあ」とかちょっとつぶやいてはちらっと桶狭間忠国を見て通り過ぎてる。
てか、桶狭間忠国と居るだけで目立つ。これは目立ちたくない野乃野足軽にとっては一刻も早くこの状況をどうにかしたいとおもえる事だ。ある意味で、桶狭間忠国も平賀式部のような存在だった。
勿論その本質は違う。なにせ平賀式部はみんなのあこがれである。その眼差しは羨望だ。彼女の美しさにみんなが見惚れて思わず息を吐くような……そんな感じである。けど桶狭間忠国に対する目は違う。それはどっちかというと恐れだ。その体に、まずは恐れを感じるだろう。なにせ制服をはち切れんばかりに着こなすその筋肉……そして百八十を超えてるであろうその身長……それなのにその健体に似合わないグルグルメガネ。
歪なその格好が恐れを周囲に及ぼしてる。
「そうなんですか。それで……隣のクラスの人が一体何ですか?」
とりあえずなんでも無いようにそういう野乃野足軽。けど、ある意味でその態度が、桶狭間忠国には異質に映ってた。
「自分の事、怖がらないんですね」
「あっ、えっと……正直に言えば怖いですよ。でもそれを見せるのは失礼かなと……」
あまりにも普通にする――それに徹してたせいで、逆に桶狭間忠国に怪しまれてしまった。なるほど……普通が普通じゃないのか……と野乃野足軽は思った。何も感じてませんし、威圧感も感じてませんって感じの態度を取ってたが、それは桶狭間忠国に取っては普通ではなかったと言うことだ。
(厄介なやつ)
とりあえずなんとか取り繕ったが、ある意味で桶狭間忠国は野乃野足軽を認めていた。こいつはなかなかやるやつだ……と。そしてそんな奴だと知ってて彼に接触してる平賀式部を「流石だ……好き」となってた。
「それで一体?」
「ああ、えっと……そう、君って平賀式部さんと親しい……よね?」
(直球で来たな)
もっと回りくどくなにやら探ってきて……とか野乃野足軽は思ってた。それこそなんか天気の話とかして……みたいな? でもそんなことはなく、直球で来た。きっと野乃野足軽の情報はあんまりないんだろうと、なにせ野乃野足軽は目立ってない。友達も親友とか呼べる奴はいないし、クラスメイトに聞いても、きっと野乃野足軽の趣味嗜好をしってるやつなんていない。
そう考えてると、なんか悲しくなってくる野乃野足軽である。でもだからこそ、野乃野足軽は自分の情報を与えることはなかったのだと前向きに捉えた。そしてなんの取っ掛かりもないから、桶狭間忠国は直球でくるしかなかった……と。
「別に親しくは……だって平賀さんは知っての通り高嶺の花だし」
野乃野足軽はそう言って頬をかきながら笑った。これは勿論だけど、用意してた回答である。自分なんて彼女にはふさわしくない。そんなの分かってますよ……というアピールである。でも逆にそれを口にしたことで桶狭間忠国には緊張が走る。いや、ちょっとしたイラッとした感情。それが力を使ってる野乃野足軽には伝わってきてる。
(感情が手にとるように分かるって便利だな)
とか思ってた。