あれは彼女の両親なんかじゃない−−それを解らせないといけない。だってこのままだと、もしもこの事態が収束したとしても、ネナンちゃんの心は宵に囚われるかも知れない。
そしてもしかしたらその力を使って宵にも行動できるようになったりね。なにせ教会がそれを可能にしてる。ならネナンちゃんもできないなんて言えるだろうか? ネナンちゃんは膨大な力を宿してるわけで……彼女なら自力で宵の理を超えることができるかもしれない。
そうなるとももう怖いじゃん。宵を一人で歩くなんて……そして街の外になんて出てしまったら最悪だ。私は宵の怖さをその身をもって知ってるが、ネナンちゃんは子供だ。そして鬼に対して変なものを見てる。実際、今見てるあの鬼にだけその感情を向けてるのか、それとも他の鬼を見たとしてもそうなるのかはわかんないが……もしもこのまま彼女を無理矢理地上に返したとしても、彼女はきっと宵にはお父さんとお母さんが待ってる−−とか思う可能性はある。
子供って色々と直情的だからね。
(そうなると、ネナンちゃんにあれが両親じゃないと伝えないと)
私はネナンちゃんを片腕に抱えてブースターを吹かす。それで空を目指した。流石にネナンちゃん一人だと宵にやるなんてできないが……私が保護してればどうとでもなる。実際鬼は一体一体相手にするのが基本だ。いくらアップグレードしたと言っても、鬼は楽な相手ではない。
なにせ世界を作れるほどの力を内包してるからね。けど今回は別にあの鬼を相手にする気はない。ただ近くまで行ってみせるだけだ。明であるこっちには鬼は来れないというのは世界の法則だし、宵に足を踏み入れなかったら大丈夫でしょう。
流石に近くで見たら、あれが両親でないとネナンちゃんだってわかるはず……と思ってたんだけど……
「私だよ!! ネナンだよ!!」
なんかかなり接近して、鬼がかなりの大きさだとわかったのに、ネナンちゃんは鬼を両親として認識してる。どういうこと? もしかしてネナンちゃんの両親はとても大きかったとか? 彼女は子供だし、大人が大きく見えるだろう。まあそれにしては大きすぎると気づいてほしいが……彼女の中では両親はとても大きかったのかもしれない。
その印象だけが強く出てるのかも。ほら思い出って美化するっていうし。まあ私的にはこれは美化なのか? って思うけど。なにせ鬼の顔って怖いよ。不気味だしね。
でもネナンちゃんにはどうやら別の顔が見えてるらしい。そんなことを思ってると、なんか鬼が手を伸ばしてきた。別に素早くはない。緩慢な動き。だから避けるのは簡単だ。けど、その必要すらなかった。なんか宵が空に現れてるが、こっちに出てくることはできないのか、鬼の手はこっちに伸びる前に阻まれる。
これが普通なんだろう。けど、一体落ちてきてるからね。世界の法則で返してくれないかな? それが起きたら楽なんだけど……そんなことを思いながら、私は鬼とネナンちゃんの邂逅を見守ってるよ。