「大丈夫?」
そう言って来てくれたのは平賀式部だった。野乃野足軽の様子がおかしいことを心配してくれたんだろう。いつもはそこまで……というか声をかけるとか言うのは極力避けてる二人である。なにせ周囲に疑われてるんだ。下手に親しい間がらなんだと喧伝するようなことは避けてた。
けど流石に今回はちょっとおかしいと平賀式部も思ったんだろう。それにクラスメイトが体調が悪いときに心配するのは普通の事……むしろ無視するほうが心象としては良くないだろう。それに一番野乃野足軽に近いのは自分なんだ……という自負も平賀式部にはあった。
実際は平賀式部は左隣で右隣にもクラスメイトはいる。その人もちょっとおかしいのは気づいてたけど、平賀式部は先を制したのだ。平賀式部は目ざとく気づいてた。だからこそ……
(この役目を譲るわけないでしょ)
とか思ってる。これなら大っぴらに話しかけても大丈夫なシチュエーションだからだ。なにせ普段から平賀式部はフラストレーションを溜めてる。本当はもっと野乃野足軽と話したいし、一緒にいたいって思ってる。
でも平賀式部にとって、周囲は煩すぎる。やりたいことも周囲の目を気にしてできないのがもどかしいと思ってる。だからこそ、このチャンスを逃すことはしなかった。
「大丈夫、だいじょう――ぶ」
野乃野足軽は辛そうながらもそういった。なんかいきなり顔を逸らされてちょっとショックを受ける平賀式部。実際、今アースのせいで色々と見えてしまってる野乃野足軽は丁度今朝の平賀式部の着替えシーンが脳裏に見えてそのせいで、平賀式部を直視出来なかっただけである。
実際、一人称視点で見えてるんだから、その人が体を見ようとしないと野乃野足軽にだって見えはしない。視点を操作出来るわけじゃなく、ただ記憶を強制的にアースが野乃野足軽におくってるだけだからだ。
けど着替えを確認したり、自分の容姿を確認したりと女の子の部屋には鏡はあるだろう。そして平賀式部程のお金持ちの家なら姿見クラスの鏡があるわけで、当然平賀式部はそれの前で着替えてた。それはそうだろう。だって自分の部屋だ。
誰にも気を使う必要なんてない。普通に堂々と下着姿だった。そして野乃野足軽が見たのも、そんな状態で鏡に映った平賀式部だったわけだ。頭が痛くてそんな興奮してる場合じゃない? 気になる女の子の下着姿となれば、そういう訳にもいかなかった。それに……である。
その子が心配して近づいて来てくれたんだ。優しい平賀式部を見て、野乃野足軽は思った。
(今日はあの下着を着てるんだよな……)
と、彼女の服の下の様子を想像してしまった。だからこそ、赤くなって顔をそむけたのだ。まあけどそれを見てかなり具合が悪いと思った平賀式部は教師に申告する。
「すみません先生。野乃野君が体調悪いみたいなので、保健室へ行く許可をください」
そういうと、すぐに先生は許可をくれた。そうして至近距離で体を寄せ合って二人は教室を出ていく。それを見て色々とクラス中では思いが渦巻いてたのはいうまでもない。嫉妬やら、羨望やら関心やら、残念やらだ。
(これで昼休みにあの人と邂逅する事を避けられるわね。ナイスよ野乃野君)
とか平賀式部は思ってた。