「ちょ!? ちょっと待って!!」
「はい? なんでしょう?」
慌てた山田奏がすれ違いざまの平賀式部に声をかけてようやく、明らかに彼女は反応した。そこらの女子なら山田奏に声を掛けられただけで、一週間は自慢話にするようなことであっても、平賀式部にとってはどうでもいい事なんだ。それだけで、ある程度の女子から既に「何あの生意気な女」とか思われてておかしくない。
「いや、その覚えてるかな俺の事」
「いえ、それじゃあ」
早い。とても早い会話だった。てかそこはちょっと位は逡巡するものだろう。てかもうちょっと考えてあげても……と野乃野足軽も思わなくはなかった。なにせ今のはちょっと山田奏が哀れに思えたからだ。
なにせ山田奏はイケメンである。これまでの人生で女性に邪険にされたことなんて無いんじゃないだろうか? そう思えるくらいに、いつだって彼は女性に囲まれてる。
それを考えるといつだって女性関係で有利に立ってる山田奏に対して「ざまあみろ」と思わなくもない野乃野足軽である。
「ちょっとまってくれ!」
「もうちょっとは待ちましたよ」
興味ないと言わんばかりに平賀式部はそう言って止まろうとはしない。けど、山田奏は諦めない。彼はすこし駆け出して、すぐに平賀式部の前に回った。そして何かを取り出す。それを野乃野足軽はかなり遠くから正確に確かめる事ができた。
なぜなら彼には力があるからだ。視力を強化して、それこそ百m先にあるスマホの画面とかちゃんとみえる。勿論普段はそんなことはしない。そして実際野乃野足軽はそこそこ離れてて、まだ校門に近づいてはいなかった。校門まで続く道で止まってそこから人だかりを見てる感じだ。
だから普通に見てたら絶対にあれはみえない。そもそもが平賀式部が壁になってその先に山田奏はいる。そうなると平賀式部の体で何を彼が出したのか……なんてのはわかりようもない。
けどそれでも野乃野足軽にはみえる。目を強化するのは何も視力だけじゃない。透視だって野乃野足軽は訓練してる。同時に使うのは力の消費が上がるが、その御蔭で離れた位置からでも山田奏が何をだしたのかわかった。
それは……
「俺の事は覚えてなくてもいい。けどこれはどうかな?」
「それって……」
なにやら平賀式部が今までとは違う反応をした。