「あの指輪は……思い出の指輪なの」
「それって山田先輩との……」
「それは違う!」
なんかバンっと机を叩いて平賀式部が立ち上がる。そして強い視線で野乃野足軽を見る。まっすぐに……何かを訴える様な瞳。力で包み込めば強い思いとかは読み取るとることが出来る野乃野足軽だが、流石にそれをいつだってやろうなんて思ってない。なにせ心の中や頭の中ってのは究極なプライベートだろう。
それを常駐的にやるって気はおきない。さらに相手が平賀式部ともなればなおさらだ。もしも……もしもなにか野乃野足軽自身が知ってショックを受けるような事があったら……と思うととても出来るわけはなかった。
だから今だってその綺麗な顔、そして綺麗な瞳に見つめられてドキドキしてる野乃野足軽だ。さっきまでその唇にドキドキしてたわけだけど、やっぱり顔全体を見てもドキドキしてしまう。
「えっと……落ち着いて。飲む?」
そう言って野乃野足軽は自分のカップに入ってる飲み物を差し出す。これは平賀式部が淹れてくれたお茶だ。かなり美味しくてアースが気に入ってる。紅茶なのか、日本茶なのか名前まではよくわかんないような名前の説明をされてた気がする野乃野足軽だが、それは忘れてしまったようだ。
(しまった。俺が飲んだ奴なのに、それって……)
勢いに押されて言ってしまったから、その事を後で気づく野乃野足軽。なので言った後にどうやってこれを取り消そう……とか思ったけど、一瞬お互いなんか無言の時間が2秒くらい続いた。二人してコップを見つめてた。
けど次の瞬間……バッと平賀式部は動いた。今まで見た彼女の動きで一番早かった……と野乃野足軽は思ったよ。一気にそのコップをとって、彼女には似つかわしくないように煽ってゴキュゴキュと喉を鳴らして飲み干す。
それでも……だ。それでも美人な平賀式部は喉が動くだけでなんかやらしかった……と野乃野足軽は思った。
「ありがとう」
なんか平賀式部の顔が赤い。やっぱり自分の行動がちょっとはしたなかった……と思ったのかもしれないと野乃野足軽はちょっとおかしくなった。寧ろそんな一面を見れることに野乃野足軽は役得だと思ってる。
けど平賀式部は違うことを思ってる。
(飲んでしまった……やっちゃった。きゃああああ! 間接キス!! ううん、これは野乃野君のだ、唾液も接種してるよね!!)
とか思ってた。