「どうにかして、あれを取り返したい……」
平賀式部は真剣な眼差しで、そんな風にいう。たしかに実際、あれが平賀式部の大切な思い出の品ならば、取り返したいと思うのは当然だよな……と野乃野足軽は思う。
「一つ聞きたいんだけど、あれって本当に本当に絶対に平賀さんの思い出の品だよね? 勘違いとか無いよね?」
「野乃野君……」
なんか鋭い視線を向けられた野乃野足軽。けどこれは重要なことだと思う。だって……実際あの指輪にはこれといった特徴がなかったんだ。あれに特徴的な宝石とかがハマってる……とかならばぱっと見であれが自分のものだ!! と分かるのも納得できる。
けど、あの指輪はとても地味だった。婚約指輪は派手な奴を送ったりすると聞くが、結婚指輪って普段からつけられるように地味な感じになると聞いたことがある。
実際、野乃野足軽の両親だって、普段は存在感がないただのリング状の指輪をしてる。傍目に見たら誰のかなんてわかんない。その指にハマってるから結婚指輪と分かるのだ。
「いや、結婚指輪ってどれも似たように見えるし……」
「……そうだね。野乃野君の言うとおりかも。私もカッとなってたし……もしかしたらあれが全然違うものだってあるかも……ただの贈り物だったとか?」
「でも覚えてるかって聞いてたような?」
「何人もの女の子から指輪くらい貢がれてそうだし、勘違いがあってもおかしくないわ。あの男なら」
「それは……」
流石にひどいのでは? という言葉は出てこなかった。だって野乃野足軽もそれはあり得なそうだ……と山田奏を思い出して思ったからだ。そして同時にイラッともした。
「とりあえずあの指輪が本当に私のものなのか……それを確かめないと」
「接触するのは危ないような……」
実際山田奏の本当の姿がわからない野乃野足軽はそういった。その言葉に平賀式部もためらうよ。それに下手にまた山田奏と接触してるのを誰かに見られると、いらぬ噂を立てられそうでもある。
なのでここは……と野乃野足軽はおもった。
「俺がやるよ。丁度、あの人とは知り合いになったからね。俺なら偶然たまたま? を装って接触して話の流れで……とかできるかも」
「いいの? 野乃野君には関係ないよ」
「全然。任せておいて」
そう言って野乃野足軽は渾身最大の爽やかな顔を作ってた。