「うぎっ……」
野乃野足軽はその場で変な動きをした。どういう動きかというと、体は横側を向いて、片足が直角になるまで上がる。腕をなぜか両腕ともまっすぐにピーンと伸ばして、同時に顔も上を向いてる。
「やばっ」
「うん? どうかしたかい?」
「いえ、なんでもないですよ」
野乃野足軽はとっさに力を解いて、自身の変なポーズを解いた。けど野乃野足軽が一瞬でも変なポーズをしたのは事実だ。駅前で人通りが多い中、それを完璧にごまかすことはできない。
(は……はずい)
今の野乃野足軽はその顔がリンゴのように真っ赤になってた。野乃野足軽は平々凡々な顔をしてる。町中に居たってどこでだって溶け込める地味めな顔だ。だから注目を浴びる……なんて事には野乃野足軽はなれてない。
(力を使って……)
(そんな事、できないと思いますよ。貴方だけでは)
(じゃあ!)
(お断りします)
(くっ……)
野乃野足軽はこの恥を帳消しにするためにその力を使おうとした。けどアースに野乃野足軽の力だけでは無理だと釘を差される。それはそうだろう。なにせ今の状況では一体どれだけの人が今の野乃野足軽の奇行を目撃したのか……それがわからない。
――となると、今いる人達全員に力を使うのか? となる。でもそんなのは現実的ではない。なにせ何人いるかなんてパッと見ではわからない数だ。これだけの人数に力を行き渡らせるなんて野乃野足軽には無理だろう。更にそこで記憶を消す? 無理すぎると野乃野足軽もわかったからアースを頼ったが、それは一蹴された。
(他人なんだから、すぐに忘れてくれますよ。気にしないことです)
(それは……まあそうだけど……)
(写真とか撮られてないといいですね。ププ)
(おい!!)
「ちょっとあそこで休憩しようか? 奢るよ」
「え? あ、すみません」
野乃野足軽はアースとのやり取りは声に出してない。けど、どうやらなにかが山田奏には伝わってたようだ。そして自分が無理やり突き合わせたからなにか不満が……と思ったのかもしれない。
とりあえず野乃野足軽の機嫌を取るためなのか、おしゃれなカフェに野乃野足軽を誘ってくれる。実際これは山田奏を慕ってる女性なら咽び泣くレベルの提案だろう。けど野乃野足軽は男である。そして山田奏がまともでないと思ってる。だから――
(早く帰りたい……)
――と失礼なことを普通に考えてた。でもそんな不乗りな野乃野足軽とは逆のやつが野乃野足軽の中に居た。
(あのカフェなら今は新作の――)
とか野乃野足軽よりもなぜかカフェ事情に詳しくなってるアースのやつである。