流石に山田奏と合流したら女子たちは野乃野足軽に接触することはできなくなった。男子トイレに詰めてた女子たちは、いつの間に野乃野足軽が山田奏と合流したのか……それがわからなくて混乱してるようだった。
それはそうだろう。なにせ野乃野足軽がトイレに入って行くところは観てるのだ。なのに出ていったところは彼女たちは観てない。それなのになぜか野乃野足軽は山田奏と合流を果たしてしまった。一体これはどういう事か? ということになるが、それを深く考えるような人たちではなかった。
寧ろ……
「あの野郎、羨ましい!!」
――となって勝手に野乃野足軽を恨んでる奴らである。野乃野足軽の場所に自分が……とか思ってるんだろう。
「よし、早速試してみたいんだけど付き合ってくれる?」
そんな事を山田奏は野乃野足軽に言ってきた。その意味が野乃野足軽にはわからない。
「はあ?」
とか思ってると、野乃野足軽のポケットの中のスマホが震えた。画面を確認してみると、通知に山田奏の名前がある。
『新しいスマホで初めてのメッセージだ。ありがとう』
とかあった。律儀なのかなんなのか……それとも茶目っ気なのか……野乃野足軽は反応に困る。それに……だ。なんかとても恐ろしい殺気を感じる野乃野足軽である。視線を背後にちらっと向ける野乃野足軽。
すると鬼の形相の女性の顔が見えた。
(いや、今の人間か?)
化け物……そう思えるほどに醜悪な顔だったような気がした。一刻も早く野乃野足軽は山田奏と分かれたい……と思ってる。けどここまで付き合って、ただこのまま分かれるだけでいいのかってのも思ってる。
(やっぱり聞いておくべきか?)
そんな事を野乃野足軽は考える。それはもちろん、平賀式部のことだ。今朝、彼はこっぴどく振られた。けど朝倉静香とのやり取りを見るに、山田奏はまだ平賀式部を諦めてはいない。
ならこれからどうするのか……それを知ってたほうが、野乃野足軽的には動きやすい……と思える。
「えっと、山田先輩。こんな事を聞くのはおせっかいだと思うんですけど、いいですか?」
「平賀さんのことかい?」
「え?」
野乃野足軽はびっくりしてその歩みを止める。なにせその話題って本人からしたら触れられたくないというか……そういう感じの話題のはずだ。それをまさか自ら話題に出してくるとは……
止まった野乃野足軽のちょっと先で、山田奏もその歩みを止めてふりかえる。その様子には余裕さえ感じられる……そんな気が野乃野足軽はした。