「腕の一本二本なんて、鬼にとっては大したことなんてない……か」
引きぢぎった鬼の腕と共に空へと投げられた自分は眼下の様子を見ながらそうつぶやいた。眼下では片腕を失った筈の黄金の鬼のその傷口にエネルギーが集まっていって、それが鬼の腕をあっという間に形成する。本当にそれは五秒くらいで済んでた。あれだと下手に怪我をしたところを直したりするよりも、もう一気にちぎって大きく回復させたほうが、効率がいいんではないか? と思うくらいである。
それにどうやら、腕を直すくらいでは鬼のエネルギー的には微々たる減少しかしてない。奴の四肢をもぎ取って、回復にエネルギーを回させて消耗させる……というのは非効率だということが分かった。
実際自分の狙いは黄金の鬼の角だ。それは変わらない。けど、あの角にエネルギーが集まってるからこそ、回復とか攻撃とかそういう行動一つ一つに費やすことで、角に集ってるエネルギーを消費させ続けていけば……その内エネルギーが少なくなって切りやすくなる……という希望、いやこの場合は願望というほうが正しいかもしれない。それがあった。
「都合のいいことは考えるのはやめたほうがいいな」
(その通りです。それに、今の私たちなら次は確実に斬れます!!)
自分の言葉に聖剣がそう答えてくれる。それはとても心強い言葉だ。なにせ腕を一本丸々はやしたというのに、鬼のエネルギーはほとんど変化なんてしてない。あれだけの大きさなのに、それを再生するのにほぼエネルギーを消費しないなんて詐欺ではないだろうか?
普通は肉体を再生するなんてなかなかの魔力を消費するような高度な魔法だった筈だ。自分の元居た世界ではそれこそ欠損を再生させることができる程の魔法使いはそれこそ一握りって感じだった。
それにそれほどの再生は一日に一回が限界……とかだった。でもどうやら鬼はそうじゃない。確かに人間と鬼では圧倒的にエネルギーが違う。人間の頃の勇者としての自分でも鬼のそれこそ一割もエネルギーを持ってないだろう。
そして勇者である自分は前の世界ではトップクラスに魔力が多かった。その自分でそれなのだ。つまりは鬼は減ったとはいえ、そのエネルギーの多さは規格外だ。だからその規格外のエネルギーで再生してるから、ほぼ影響なんて出てないってことなんだとおもう。
「もっと大雑把にエネルギーを使えばいいものを……いや、使ってアレなのか」
大きなエネルギーを持ってる奴はその大きなエネルギーに頼り切ったような使い方をする。それはつまりはどでかい高威力の攻撃をやってしまうって感じだ。
なにせ阿保みたいにただエネルギーを放つだけで大抵は倒せるだろう。倒せてしまう。なので小技なんて必要なんてない。エネルギーを制限するなんてのは小技なのだ。茲許ない奴がするずる賢い策だ。その証拠に黄金の鬼はそれこそ世界からエネルギーの供給を受けてるときはバカスカと極大砲撃を撃ってた。
今はそうじゃないが、それはただ普段の戦い方に戻っただけだろう。黄金の鬼としては小細工してるつもりはない。でもそれはどうやら攻撃に関してだけ……なのかもしれない。
なにせ腕を再生させたのにはそれほどエネルギーを消費してない。けどそれはもしかしたら攻撃には際限なく攻撃を込めることができるから……なのかもしれない。
けど再生するエネルギー……それに必要なエネルギーは大体は決まってるだろう。いっぱい注げば直りが早くなる……というのはあるだろう。でもそれも多分鬼はやってる。だからこそ、あれだけ一瞬で自身の腕を再生したのだ。
つまりはあいつにとって回復なんてのはいくらエネルギーを注ごうとしても、大した負担にもなりえない行為……ということだ。つまりは長くやっててもいいことなんてのは――ない。
「行くぞ、次で確実に決める!」
(はい!)
宣言、それは覚悟だ。それをもって、思いを強く籠めることができる。そして聖剣は心に応えくれる剣だ。