uenoutaの日記

好きなものを描いたり、買ったものを紹介していきます。

ある日、超能力に目覚めた件 192P

 桶狭間忠国が恐怖に慄いてる。けど、それでも、桶狭間忠国は最後の抵抗をしてきた。最後にどうやって恐怖に打ち勝つか。それにはどんな方法があるのだろうか? 勇気? 愛……それらはきっと物語の主人公が最後にその心に残ったものがそれだったんだろう。心が屈服しようとしたときに、最後に輝くものこそが、その人の本質かもしれない。

 なら桶狭間忠国はいったい何をもって、最後にともすのか。それは勇気か? 愛か? いや違った。もう一つある。人の心に最後に残る勇気や愛とは違うかもしれないが、どこまでも残るもの。それは――

 

「がはっ!?」

 

 ――そんな声と共に、野々野足軽の体が吹き飛んだ。一体何が起きたのか。桶狭間忠国は口から血が混じった唾を地面に「ペッ」と吐く。でもそれでも桶狭間忠国の口の中は血だらけだった。それだけの痛み、いや負傷じゃないと体の恐怖を取り除けなかったんだ。

 そう、桶狭間忠国は勇気や愛じゃない。痛みで恐怖を克服……いや、ごまかした。さっきまで桶狭間忠国の体で自由に動くところなんてほとんどなかった。それこそ目と口くらいだった。体の可動部分で行動可能な場所で……ということだ。 もう顔の部分しか動かせる部分はなかった。実際のところは、桶狭間忠国なら耳も動かせる。だが、耳を動かしても自身に自傷を負わせることはできない。

 それこそ瞼を動かすことだけでも自傷するのは難しい。一番顔の部位で傷つけやすいのはそれこそ口だろう。別に桶狭間忠国は何かを考えたわけじゃなかった。ただこの恐怖から逃れたかった。だからこそ自傷し歯を使って舌をかんだ。その痛みで一気に覚醒した桶狭間忠国は一気に動いてた。そして拳を振りぬいたんだ。しかも……だ。しかも野々野足軽は分身をしてた。分身しつつ、桶狭間忠国へと向かってたんだ。

 普通なら、それらいくつかの選択肢があったら、どれが本物なのか? と思って本物を見極めようとするだろう。けど桶狭間忠国は違った。たまたま混乱して殴った一体が本物の野々野足軽だった? それはそれはとても運がいいことで……となるだろう。けど違う。桶狭間忠国はその高めに高めた身体能力で一瞬で分身してた野々野足軽全部を殴ってた。本当にそんなことが可能なのか?

 と殴られた本人の野々野足軽だって今かなりダメージを負いつつ思ってた。普通なら一瞬で三体・四体くらいには分かれて見えてた人間を殴るなんてのは不可能だろう。実際一瞬とは言ってるが、数秒はかかってはいる。でもそれを体感した野々野足軽からしたら、それはまさしく一瞬だった。

 

「や……やった……のか?」

 

 野々野足軽はトンネルの壁にぶつかって伸びているように見える。その姿を見て思わずぐっとこぶしを強く握る。口の痛みは感じてないようす。実際はかなりだらだらと垂れてて、血が口から溢れては顎を伝い、地面に血痕を残してる。それはかなりやばい状態に何も知らない人が見たらなるだろうことは簡単に予想できる。けど、幸か不幸かさっきから誰もこの通路を使う人はいないらしい。

 

「はぁはぁ……死んでない……よな?」

 

 ピクリともしないの野々野足軽にちょっと不安を抱いてくる桶狭間忠国。なにせ桶狭間忠国の拳は凶器だ。それを桶狭間忠国はちゃんと知ってる。中学の頃、やりすぎた桶狭間忠国は相手を一回殺しかけたことがある。

 それはかなり噂になって、桶狭間忠国は「やべー奴」というレッテルを張られた。元々この図体と筋肉で避けられてたのに、その噂が決め手になって、中学ではずっと腫れもの扱いされていた。だからこそ高校ではなるべく大人しくしていようと思ってたみたいだ。

 けど流石に死人が出たとなったらそれを隠すのは難しい……こうなったら……と考えてポツリと声が漏れる。

「埋めるか……」

「それは困るよ。てかすぐに犯罪に走っちゃダメでしょ」

「あが……」

 背中に伝わる感触を桶狭間忠国は感じた。そして同時に何やら頭をかき乱されてるような感覚。なんとかまだ意識はある。けどそれをすぐになくなりそうな……

(なん……どういう……)

 そんなことを思いつつ、目の前の野々野足軽みる。するとその野々野足軽はスウっとまるで最初からそこには何もいなかったかのようにきえていく。もう意味が分からなかった。そして頭をほじくり返されてるような感覚。それで悟ってしまった。

(勝てない……)

 ――と。そしてそう思った桶狭間忠国はなんとかこの言葉を紡いでた。

「ご、ごべんば……さい。まいり……ばじ……ばじ……ばし……だ」

 その顔は涙たらたら、鼻水も垂れ流し、口からは血と涎が出てて、顔中の穴という穴からすべての水物が出ていた。もちろんそれは汚らしいかった。