「ぐえっ!?」
「がはっ!?」
そんな汚い声と共に二つの重いものが倒れる音が響いた。そしてそれは言うまでもないかもしれないが、元は十字傷の男の舎弟だった二人だ。
さすがに二対一ということで十字傷の男も無傷という訳には行ってない。そこは取り巻き達の意地もあったのかもしれない。けどやっぱりだが、勝ったのは十字傷の男だった。
「バウアー!」
倒れてる犬に駆け寄ってその状態を調べる十字傷の男。元々バウアーは毛が短い種類の犬で細い。それは別に十字傷の男が満足に餌を与えてないから――ってことでは決してない。
むしろ十字傷の男は自身の飯を水だけにしても犬(バウアー)の餌だけは確保するような奴である。だからこれはそもそものこの犬の標準的な体系だろう。それに実際、保護したときはもっとボロボロだった。これでも毛並みも肉付きもマシになったほうである。
でもそんな犬(バウアー)は両足を縛られて、さらには口からは血が流れてた。きっと殴られたり蹴られたりしたんだろう。
「すぐに自由にしてやるからな」
そんなことをいって、優しく犬(バウアー)に声をかける十字傷の男。そして懐に忍ばせてた使い込んだナイフを取り出す。そしてまずは前の縄をきった時だ。十字傷の男の背後で倒れてる二人のうち、金髪のほうがこういった。
「ははっ、折角暴力をふるえば前のあんたに戻るかと思ったのによ……」
そしてその言葉に同調するように、もう一人……赤髪の奴もこういった。
「ああ、本当だよ……やっぱ、その犬邪魔だよな」
そういって二人は懐からボールを取り出した。別になんの変哲もない使い古した野球ボールだ。きっとどこかから拾ったか盗んだものだろう。それを二人は投げた。けどそれは十字傷の男へ……じゃない。十字傷の男を超えていく。
そして二つのうち、一つが棒のようなものにぶつかった。それと同時だった。立てかけられてた木材や鉄骨みたいなのが十字傷の男のところに落ちてくる。どうやら犬(バウアー)の位置に届くようにちゃんと調整されてたみたいだ。それに十字傷の男が住んでた時は、生活スペースとしてた場所にはああいうのはなかった。多分だが、この二人が集めて来てたんだろう。そしてそれを心もとない棒でなんとかぎりぎりのバランスで支えてた。簡単に外れるように。
そして二人でボールを投げたのもきっとどっちかが当てるだろうってことだろう。実際その通りになった。いろいろと杜撰としか言いようがないが、彼らにとってはそうじゃなかったのかもしれない。
実際、十字傷の男は大ピンチだった。そしてまだ後ろ足の縄は切ってない。それに犬(バウアー)は中型犬くらいはある。素早く抱えて回避するなんてできなかった。これが小型犬ならとっさに抱えてよけることもできたかもしれない。
だからこそ十字傷の男の判断は早かった。すぐに犬(バウアー)に覆いかぶさったんだ。そして直後――
ズドドドドド
――と、ビルを揺るがすほどの衝撃が鳴り響いた。