「おい……」
「ちっ、ズレたか? とりあえず息の根止めるぞ」
そんなことを言って二人は懐からナイフを取り出した。その動作に一切の躊躇いはない。それだけそれを使い慣れてるかのような……そんな動作だった。
折りたたまれたナイフをロックを解除して素早くシャキッと刃を出した。手入れされたナイフの刃が暗闇の中、わずかな光を反射してその存在を主張してる。
そして二人が出したナイフは同じものだった。まるでお揃いかのような……二人は目を凝らす。耳も凝らした。なにせ視界は悪い。それに怪我くらいしてるはず。絶対に無傷とは思えなかったから、息が荒くなってるとおもったんだ。それを捉える気だ。
けど不思議と何も聞こえなかった。
((おかしい))
二人は同時にそう思った。寧ろ聞こえるのは動く自分たちの音しかない。二人は出ていこうとしてたから、金髪の方がキャンプとかでも使える光源のランタンを持ってた。それを掲げてなんとか少しでも見ようとする。
でももともと汚かった場所である。舞うものは大量にあっていつまでたってもモクモクとしてる。そんな中では目標をとらえるのは困難だ。だからこそ音も注目してるのに、聞こえるのは自分たちの音ばかり。よしんば……十字傷の男は我慢強いのかもしれない。だが向こうには犬がいる。犬はそれこそ「はっはっはっ」と通常時でもそんな風に声を出してる。さらに言えば今は怪我をしてる可能性が高い。それなら犬は吠えたり泣いたりするはずだ。
いや、むしろしないとおかしい。そう……だから二人はこの状況が「おかしいと」と思ってる。不気味な感じがある。そう思ってると、金髪が持ってるランタンが何やら点滅しだした。ジジジ――という音を立てて、消えたり点いたりを繰り返す。
「おい! どうしたんだ!?」
「わかんねえよ!! 充電だってまだ切れるには早いはずだ!! おい、しっかりしやがれ!!」
赤髪の言葉にはそう返す金髪。でもそんな風にランタンに当たったせいか……フッとランタンの光源が消える。いきなりの暗闇だ。実際はまだギリギリ夜……という時間帯ではない。けど、このもともとなんとも不気味な廃墟ビルである。電気は通ってないし、住んでることがばれないように、ビルの中央付近なこともあって、窓は遠い。だからランタンの光源が消えた瞬間に暗闇に包まれた。
「ちっ、おいスマホを代わりにするぞ」
「ああ」
そういって二人は素早くスマホでライトをつけた。そして前を照らすと、そこには人影が見えた。
「はは」
わずかにそんな声を出したどちらか。そしてにやりとして、その人影に近づいていく。そして……躊躇いなんてなかった。ナイフを持ってる腕を振り上げて、そして切っ先を向けて振り下ろす。そのすぐ後だった。
「「ぐああああああああああああああ!?」」
男二人の悲鳴がビルの中に響いた。