「なん……で」
金髪はそんなことを思ってた。なんで声を出し合って互いを確認してなかったのか……それをやってたらこんな事故は防げただろう。けどその答えも彼らはわかってる。なにせ声を出し合ってたら、互いの位置は確かにわかるだろう。
でもそれは十字傷の男だって同じだ。自分達の位置だけをバラすなんてそんなのはおろかだろう。そう思ってた。
「う……うう」
金髪と赤髪……二人は同じような格好で地面に倒れてる。そして服を染め上げていく血の生暖かさを感じてた。けどそれはすぐに体の奥からくるかの様な底冷えへと変わっていく。
どのくらい深く切れてしまったのか……二人は確認なんかしてないが、それでもこれはまずいと本能が訴えて来てる。その時だ。そばに誰かいるような気がした。そしてその誰かは十字傷の男しかいない。そのはずだ。かすれる視界、二人とも血を流しすぎてる。
「俺たちをなんで……」
「なんで……捨てるんだよ」
そんな言葉が出てきた。ずっと三人で入れると思ってたのかもしれない。そして二人はいくら疎まれようと、三人で入れたら周囲の事なんて気になんてならなかったんだろう。それに……彼らはいつまでもいつまでも、それこそ老後なんてことまで考えたこともない。
ただ今を刹那的に生きて、そしてくだらなく死んでいく。その時も三人なら……それでよかったのかもしれない。それなのに……二人になった。それがこの二人にはたえられない。死ぬのなら三人で……それがこの二人の望み。
二人は気配に手を伸ばす。そして何かをつかんだ感触がした。それがきっと十字傷の男だと信じて、逃がさないように力をこめる。でもそう思ってるのは二人だけで、二人の手にすでに力はほとんど入ってなかった。
そんな二人の手に重なる何か。それの手の感触を二人はしってる。ごつごつしてて骨ばってる、そして小指がない足りない感覚。これはきっと……と二人とも思ってる。
「なぁ俺たちの関係はなんでもねえよ。ただ歪なだけだ。それを尊いものだって、大切なものだってお前たちは思ってた。ただ傷をなめあってただけなのにな。
お前たちも知ってみるといい……愛って奴を」
そんな言葉が聞こえて来てた。そしてそれを聞きながら、二人は遠のく意識の中でこう思ってた。
「「くそったれ」」
とね。彼らはそんな言葉を聞きたかったわけじゃない。