「や、やめろおおおおおおおおおおおおお!!」
そういって紫の光に向かって走り出す十字傷の男。けどその心には恐怖――があった。なにせあの光を見たことが十字傷の男にはあったからだ。いやな記憶……だが、自分が変われたきっかけでもある。でもだからって実際あれが何なのか……十字傷の男にはまったくわからないんだ。今度はどうなるかわかんない。
だが、一応ダチ……いや舎弟だった奴らが何かされそうになってる。別に十字傷の男は正義感があるやつじゃない。寧ろ、敵が別の奴を狙ってたら、ぎゃくにラッキーと思って背後から迫ってブスリ――とするくらいには最低な奴だ。
それにもしも仲間がピンチだとしても、それを利用して勝ちをもぎ取る――そういう奴である。だから今までの十字傷の男なら、あの光が見えた時点でバウアーを抱えて逃げてておかしくなかった。こんな行動をとるのは今までの十字傷の男にはなかったこと。
(あいつらとは、まともな事なんてほとんどしなかったが……)
奴らとやってたことの思いで……それは犯罪や、暴力……褒められることなんて一つもない。仲間……なんて十字傷の男は思ってなかった。ただついてくるから、侍らせてただけだ。つまりは別にダチやら仲間……とかいう感覚だってなかった。
でも今こうして動いてるのは……やっぱり十字傷の男が変わってるから。そして確かに禄でもないことしかしなかったが、そこには確かな時間あったからだろう。少なくとも、十字傷の男も思ってたんだ。
「一人じゃなかった……それだけだ」
光に向かって突進する十字傷の男。ラグビー部の様なタックルをかます。けどそこに感触なんてのはなくて……ただ壁なのか、柱なのかにぶつかった。
鼻血がポタポタと落ちる。そんな鼻を抑えつつ、光の方へと視線をむける。
(そこにいないのか?)
確かに十字傷の男は光に向かって突っ込んだ。なのに……何もなかった……自分ではどうしようもできない……そう思うと、もう一度……なんて気にはならなかった。
「そいつらに……何をするんだ?」
震える声。そう、それは十字傷の男もびっくりするような震える声だった。自分からこんな声が出るんだと……そう思うくらいの弱弱しい……それこそ今まで、彼が虐げて来た奴らが出してたような……そんな声だった。
「君だけだと不公平だと思った。だからチャンスをやろうと思ったんだよ」
声の主は十字傷の男に返答する。その意味は分からなかったし、それに返答が返ってくるのも意外だった。なにせその存在には十字傷の男なてただの塵芥みたいなものだと思ってたからだ。
目の前の謎の人物は十字傷の男を認識してるのかさえ……わかんない。それほどに圧倒的。絶対に戦いを売ったらいけない存在。それがすべての感覚でわかってた。
そしてそんな存在は、その光を倒れこむ二人に注ぎ込む。