「な、なに!? なんの声?」
「なんかすごい声聴こえた!!」
二人の反応はそれぞれ違った。小頭は声を聞いて怯えてて、幾代はなにかちょっとワクワクしてるような……そんな感じに足軽は感じれた。
とうの足軽はという、とりあえず今の声には驚いた風を装いつつ、ここを離れる提案をまずはする。
「なんだったんだ今の? とりあえずなんかヤバそうじゃね?」
「うん、私もそう思う! 早く離れよう――ひっ!?」
足軽のこの演技に上手く乗ってくれた小頭。そもそもが小頭はこの廃村が不気味だと嫌がってた。だから離れる事に文句なんて無いんだろう。だからすぐに同意してくれた。けどそれは想定内のこと。でもその後に「ひっ!?」と言ったのは足軽にとっても想定外だ。
「あぁ……あああああれ……」
「どうしたの小頭ちゃ……」
何やら震える声を出してる小頭。そんな小頭は再び震える指で今度は自分たちの背後を指さしてた。そしてそれの方向を観た幾代もまた、言葉が途切れる。
足軽はいくら遠くても、不可思議な存在でもその場所を見ることができる。でも同時に複数を見ることは苦手だった。だって視覚とは情報の宝庫である。見る……と言う行為はそれだけ情報を収集してることと同じだ。
なので色んな場所を同時に見る……となったらそれだけの処理能力が必要となわけだ。端的に言うと、とても頭に負荷がかかる。なので実際今は遠くにいるさっき吠えた存在。それを捉えるために一つ視界を確保してて、そして小頭たちを見る普通の視界も確保するために二つの視界を観てるのが現状の野々野足軽である。
「こけし?」
「ななななななに言ってるのよ! 早く逃げないと!! 呪い殺されるよ!」
「こ、こんなのは初めてだけど、確かに今はここから出たほうが良さそうね」
「――っひゅ!? これって」
「はは、この村、案外賑わってたんだ」
思わず冗談めかしてそういう幾代。まだ日は高いのに、幽霊のような黒い靄のこけしたちがこの村には沢山湧いていた。