「あし……がる?」
聞こえた声を間違えるはずがない。だって生まれたその瞬間から知ってる孫の声だ。今だって瞼を閉じれば鮮明に幾代は足軽のこれまでの成長を思いだす事が出来る。それたけの愛があるのだ。間違える筈なんてない。それに……だ。
それに猩々に絡まる光の糸というか縄というか? それは複雑にからみあって一つ一つが繊細で神々しくも見えるそれは禍々しい筈の地獄の門から出てきてる。あのデカい猩々が完全に門から出てきてから、意識から外れてた地獄の門。どうやらあの糸はそこから出てきてる。そしてそこには一人の青年がみえる。
少年というには聊かおとなびてるし、かといって大人といえるほどに成熟しきってもいない。そんな姿を幾代は見間違えるはずはない。いや、かなり最後に観た時とは変わってる。具体的にはなんかその体が白い炎のように揺らめいてるというか? まるで実態じゃないかのようだ。
「足軽……なの?」
その言葉がきっと届いたんだろう。足軽は優しく微笑んでこういった。
『後は、任せて』
紫と黒が混じったような憎しみの色が腕からあふれて、拳に乗って、凶悪な力を放ってるのが幾代にもわかった。両手を合わせて、途中からクルクルと体全体を回転させて勢いをさらに増してまるで一つの車輪のようになった猩々。
あんなのただぶつかるだけでも普通の人間ならプチャってなるだろう。けど猩々はただぶつかるのを狙ってるわけじゃない。その勢いを最大限にました腕を……両の手をたたきつける気だ。
けど次の瞬間だった。何もない空中で巨大な猩々の体がはじけ飛んだ。まっすぐに向かってきてたのにその勢いが急に止まり回転してた体が跳ね上がったんだ。まるで壁にでもぶつかったみたいに。
でもそこには何も幾代にはみえない。きっと小頭達にだってみえてないはずだ。そして次に何かばちーんという衝撃音が響いた思ったら、猩々の体が左側に飛ぶ。さらにはもう一度音がすると逆に行き、上下左右に、不可視の攻撃が猩々を襲ってるんだと幾代は理解した。
そして……ついには猩々は大人しくなり、光の糸で今度こそ空中に縫い留められる。それはまさに、圧倒的というしかない所業だった。