「あっ、野々野……くん? どうして?」
いきなりの彼の登場に私はちょっとしどろもどろになる。けどそれは向こうも同じようだ。
「えっ? 田上さん? 俺……自分はちょっと忘れ物を取りに。それよりも部活は? エースでしょ?」
「エースって……そんなことないよ」
「この前の練習試合もすごかったって話題になってじゃん」
「や、やめてよ。それにあれは……」
テレテレ……となってしまう私。でも、ふとあの時の事を思い出すとちょっと心が重くなる。すると彼がいった。
「どう、したの?」
私の気持ちの変化を敏感に察したのか、野々野君がそんな風にいってくる。私はもちろん「ううん、なんでもない」――という。けど彼は何かを察してる?
「そう? それ、とろうか?」
それ……とは私のスマホだろう。でも私の手はすでに指先にあたるほどに近くにある。ここで彼にお願い……なんていうのはおかしい。だって普通ならパパっととって終われることだから。だから私はスパッとスマホを取った。さっきまでの慎重さはどこへやらって感じでね。
「あははは、ちょっと落としちゃって」
「そっか、壊れてないといい――」
バキっ……
「――いまなんかやばい音しなかった?」
野々野君と放課後の教室で二人っきりで話してる。そのシチュエーションにきっと緊張してたんだと思う。手の中に包んだスマホから確かに今……嫌な音がした。スマホが出してはいけない音だ。たしかに聞こえた。空耳じゃない。でも……
「えー? なになに? きっと気のせいだよ」
私は野々野足軽君にそういって笑う。そんなことないない。今の音は勘違い。それを押し通すんだ。だって確かめられたら困る。絶対に私のスマホはもうご臨終してるからだ。もしも女の子が掌でスマホを握りつぶしてたらどう思う? 絶対に「こいつやばいな」――ってなるじゃん!! むしろそうならない方がおかしい。
絶対に引かれる。だから私は必死にごまかして、早くこの場から去ろうとした。
「でも……確かに」
「大丈夫だから。私部活に行かないといけないからじゃあね。野々野君また明日ー」
そういってスポーツバックを無造作にとって、肩にかけつつ野々野君が入ってたのとは反対側の出入り口に向かう。だってこれ以上かかわりたくないからだ。こんな避けるような態度はダメだと思う。もう話しかけてくれないかもしれない。
けど仕方ない。そう思ってたのに……
「大丈夫? スマホも心配だけど、最近の田上さんが心配だよ」
「え?」
足が止まる。それは確実に彼の……野々野君の言葉のせいだ。