野々野小頭は気を付けて扉を開けた。そこは自分の部屋ではない。向かいの兄、野々野足軽の部屋である。ちょっと前に野々野足軽は帰ってきたのは気づいてた。だから野々野足軽に協力してもらおうと小頭は考えた。けどゆっくりと開けたのは、それに自信がなかったからだ。
兄である足軽は小頭にそこそこ甘いから協力してくれる……とは思ってるわけだけど……でも危険があるとなったらそのそこそこ甘いのが野々野小頭の想定の方向とは違うように発揮される可能性はある。つまりは……
(お母さんと協力されたら面倒なんだよね)
そういう事である。もしかしたらその可能性も実際半分はあるとおもってる。きちんと妹として扱われてるわけで……小さいときとかは、それこそもっとずっと優しかった記憶がある。そして野々野小頭もいつだって足軽の後をついていくような子供だった。あの頃の過保護な兄の姿……それは今でも思い起こせるのだ。だからこそ、もしかしたら……と小頭は思う。時々今でも過保護になるのが兄である。
(寝てる?)
わずかに開いた扉。そこから部屋の中を覗く野々野小頭。どうやら足軽は寝てるらしい。ベッドに横になってる足がみえた。その時だ。
(うん? なにか動いてる?)
野々野足軽の部屋で何かが動いてるような気がした。足軽がベッドに横になってるのなら、それ以外には人はいない筈である。まさか友達を放っておいて自分だけ寝る……なんてことはしないだろう。寝てるのならだれもいない筈。けど何かが……気になった小頭はもうちょっとだけ扉を開いて中を確かめようとする。
(――っ!?)
それは人のような形をしてた。けど何かはわからない。けど確実に兄である野々野足軽の傍にそれはいた。透明な人と言っていいのか、その部分だけがなんかちょっと透明度が違うからそれを野々野小頭も認識できた。そしてその時だ。
ヒュっ――
思わずそんな風に息をのんで廊下の壁に背を預けて逃げた。だって今……
(気づかれた?)
そんな気がしたんだ。ドキドキと野々野小頭の胸は鳴ってた。外からはサイレンの音が木霊するように聞こえる。外も大変なのに、家の中でも大変なことが起きてる……その事態に野々野小頭は混乱する。
(いったいどうしたら……)
そんな風におもってスマホを見る。知り合いに助けを求めたい。そしてこんな事を相談できる知り合いなんて草陰草案とか猩々坊主とか、そっちの人たちしかいない。けど……彼らは今まさに大変な状況だ。こっちにこれるわけない。
(でもこのままじゃ、お兄ちゃんが……)
もしも兄がおかしくなったら……とかもう会えなくなったらとか考えると流石にそれは嫌だと思った野々野小頭。だからもう一度、勇気を出して足軽の部屋を覗いてみることにした。