「友達……かな?」
「はじめまして平賀さん。僕はこいつの親友の桶狭間忠国です」
なんか自分を友達から親友に格上げして好感度を稼ごとうしてる桶狭間忠国。でもそれでも平賀式部は警戒心を解くことはない。なにせ相手は上半身裸なのだ。そんな奴に自己紹介されたとして、された相手は困惑しか無いだろう。
「とりあえず、そのままはやばいから着替えたほうがいいよ」
そういってとりあえずこの場から桶狭間忠国を遠ざけようとする野乃野足軽。一刻でも早く、桶狭間忠国を平賀式部から引き離したい……という思いが見える。でもそれは桶狭間忠国だってわかってるだろう。
「ははは。最近は暖かくなってきたからね。全然大丈夫だよ?」
そう言って、言葉の節々でなんかポーズを決めてる桶狭間忠国。二の腕にコブを作ったり、大胸筋を見せつけて来たり、その背中に鬼を作ったりしてる。そのたびに周囲の男子たちからは「おお~」という声がきこえる。けど女子たちは「きゃー!」とかいう悲鳴が響いてた。
黄色い声ではない。悲鳴である。けどそんなの桶狭間忠国は気にしてない。彼の目には平賀式部しか映ってないんだ。そしてその平賀式部は別になんの反応もしてない。つまりは――
(俺の筋肉に見惚れてるな)
――とかおもってた。ただなんと反応していいのか、良くわかんない平賀式部はいつもどおりに無反応を貫いてるだけだ。なにせ平賀式部はこれまでの人生経験から、自分の反応が周囲を一喜一憂させることを学んでる。
なにせ彼女がちょっと「面白いですね」とか言えばそれを「好き」と勘違いする輩とか、「ありがとう」さえ、それだけで「好き」に変換する輩が今までいたのだ。それによってどんな事になってきたか……それを思えば、平賀式部が感情を表に出さなくなったこと、そしてあまり人と関わらなくなったことは当然だと言える。
そしていままでの勘が言ってた。ここで反応しては行けない……と。
「大丈夫とかそういうことじゃない。ほら……あれ」
そんな風に野乃野足軽が言った時、青空に響く笛の音が響く。
ピピー
「そこの大男、やめなさい!!」
「警察!? 一体誰が!!」
少し遠くから、警察が向かってきてた。本当なら校門前なんだから、教師が納めるべきだろう。でも教師でさえ、桶狭間忠国にはビクビクしてる。普段は温厚で別に問題を起こしてるわけじゃない桶狭間忠国だが、その巨体はどうしても他者に威圧感を与えてしまう。
その体を前にしたら誰だって感じるだろう。その圧力を。だからこそ、野乃野足軽は警察に通報してた。目の前にいるのにどうやって? と思うだろう。それは器用に力を使ったのだ。