ドキドキ――そんな鼓動が胸を打つ。彼女の顔は紅潮して、心臓が口から出てきそうな……そんな状態だった。震える唇……震える体。けどそれは恐怖なんかじゃない。
視界はなんかピンクがかってて、その対象以外はぼやけて見える。彼女の視界の先には一人の男性がいた。いや、もっと正確に言えば男子高校生だ。さわやかな長身、頭よさそうな顔してるが決してがり勉って感じではない。ちょうどいいくらいにその制服を着崩してる。
決して不良ではないだろう。けどかっちりしすぎてもない……そんな程度。それに清潔感だってある。もう完璧……そう彼女は思ってた。
「ああ……」
そんなため息みたいな声が漏れる。その漏れた言葉には長らく忘れてた「恋」があった。
「恋ってこんなだったな。それに……今俺は……いやいや私は女なんだ。好きな人に、普通にアタックできる」
そういった彼女の行動は早かった。軽く歩いていって、目の前で落とし物をする。なんか小銭を落としてた。しかも500円。どうやら大きくて、なかなか見過ごせない額を落としたらしい。
これが一円とか五円とかならスルーしたかもしれない。十円も同じ。百円は微妙なラインだ。だから五百円だった。
「君、落としたよ?」
「あっ、ごめんなさい。ありがとうございます!!」
そういってきっかけを作った彼女。けどその時、隣にいた女の子たちがいう。
「もう、貴重な予算なんだよ。落としちゃだめだよ!」
「てか、なんかキャラちが――うぐっ」
どうやら彼女が落とした500円は彼女たちにとってはとても価値が大きい貴重なものだったらしい。まあ施設暮らしだからな。余計なことを言い出した子には素早く脛を蹴ることによって口封じをしてた。
「大丈夫その子?」
「あはは、大丈夫です。突発的な腹痛によく襲われる子なんです」
「はは、そうなんだ。それじゃあ、気を付けてね」
「あ、あの!」
すぐに彼は去ろうとする。けどそこを彼女は呼び止めた。でも策はない。どうにかして知り合いくらいにはなりたいと思ってる彼女だ。ここでなんのつながりもなく分かれてしまったら、次がない。だからまだ一緒にいたいんだろう。
「えっとあの~そう! 私たち実は迷ってて~」
くねくねしつつ、そんなことを言い出した彼女。すると隣の子がこういった。
「え? いつもいってるじゃ――ぎゃ!?」
とりあえず見えないように尻をつねった彼女。そして笑顔で余計なことを言いそうになった子にせまる。
「ね? 私たち迷子だよね?」
「う……うん」
その無理やりで強引な展開でも、彼はいい奴だっだ。なんと一緒に行ってくれるといってくれた。彼女は内心で「よし!」とガッツポーズをした。