「あれって……」
ゴクリ……と野々野小頭は唾を飲み込んだ。いや、野々野小頭だけじゃない。他の皆、それこそ草陰草案・猩々坊主・アンゴラ氏・チャブ氏・ミカン氏……それぞれ皆、緊張が走ってる。でも野々野足軽は違った。
「猫じゃん、迷い込んだのかな?」
「ダメ!」
野々野足軽がかわいらしい猫に近づこうとしたら、野々野小頭が声を荒げた。きっとこの廃ビルでみた、怖い猫を思い出したんだろう。
「なんだよ? ただの猫だぞ?」
「えっと……その……」
野々野小頭は歯切れが悪い。どう説明したらいいのか……と思ってるんだろう。なにせ……だ。なにせここで見たことを素直に話したとして、兄である野々野足軽が信じてくれるだろうか? って不安がある。というか普通は信じない。実際、今見えてる猫は普通の猫みたいだ。顔が二つある……なんてことはなかった。
けど、この場所で見る猫を警戒してしまうのはどうしても避けられない野々野小頭だ。それだけあれの衝撃は強かった。そしてそれは野々野小頭だけじゃない。草陰草案もそうだし、大人たちもそうだ。アンゴラ氏なんて、懐に手を入れてる。きっと何か武器……というか武器のようにできる石とか札とかを忍ばせてるんだろう。
「みゃー」
再びそんな風に声をだしてなく猫。三毛猫みたいに見えるその猫はなかなかに丸い。野良猫にしては太すぎではないだろうか? と思うほどには太かった。
すると……
「あれ? 君……もしかして……」
――と何やら草陰草案が思い出したように言った。そしてその声にこたえるように「にゃーお」と鳴いた三毛猫。たとたとと野々野足軽なんて眼中になく歩いて、ただひたすらに草陰草案を目指す。その前はもちろんだけど大人たちもいた。けどなぜだろうか? その三毛猫の堂々としたその歩き姿に、自然と誰もが道を開けた。
そして三毛猫は草陰草案の前へといった。
「君の声……聞いたことある気がする」
「みゃー」
そういって体を草陰草案へとこすりつける三毛猫。そしてそれをなでる草陰草案。すると……だ。すると三毛猫の体か淡く光りだした。そして透明になっていって、その内見えなくなった。消えるその瞬間「みゃみゃ」と鳴いて、その三毛猫は消えていく。
そんな三毛猫を撫でたままの態勢で……草陰草案の頬に一筋の涙が流れる。そして体を丸めて「ありがとう」と泣き出した。皆何が何だかって感じだけど、空気を読んで草陰草案が落ち着くのを待ってた。