恐怖――それがせりあがってくる。そして一歩、そいつが前に出た。その瞬間、俺は「ひぇえ」とかいう変な声が出た。そして俺は後ろにしりもちをついた。その瞬間だ。なんかガキン!! ――と俺がいた足元の壁が鋭利にえぐれた。
「は?」
「くっ……」
鮮血が舞う。それは俺のじゃない。女のだ。女にも俺と同じような攻撃が襲ってたんだろう。けど女は俺のようにビビって尻もちをつくなんてことはしてなかった。それどころか、反応してる。けど……それでも、血が舞った。どこをやられたのか、俺にはわからない。
「面倒だぞ。しっかり受け取れ」
さらに強まるプレッシャー。来る――そう思った。俺は無様に「あががあああああ!!」――とかいって不格好な姿をさらしつつ、その場から飛びのいた。でも次の瞬間、痛みが走る。背中になにががひっかいたような……そんな痛みだった。けど……それでも……
(生きてる……)
どうやら当たったけど致命傷にはならなかったみたいだ。けど、この見えない刃をよけ続けるなんて不可能だ。それに俺がよけたから、今度は地面とそして傍にあった壁までも一本の線でえぐられてる。
こんなのにまともに当たったら、体が無事でいられるはずがない。けどもしかしたら俺は知らないが、女ならその秘蔵の強化術でどうにか耐えられるのかもしれない。
そんなことを思ってたけど……どうやらそんなことはないらしい。
「かはっ……」
そんな風に血を吐いて、彼女は自身の血の中に沈んてた。
「まだ二人共生きてるなんて……面倒だな」
更にもう一度あれがくる。俺はただただ動いてた。その手の武器を放り投げて、俺は女を抱えてた。
「ぐがああああああ!?」
臀部に走る痛み。切られた……確実に……痛みの次に来たのは熱さ。燃えるように身体が熱い。けどそんなの無視して俺は走り出した。痛みよりもまだ熱い方が……身体が興奮してるかのように勘違いできる。てか、実際痛みなんてどこかに行ったようだった。だから走れた。後ろなんて見なかった。見たら心が折れるだろうと思ったからだ。
ただ走って二人でこの場を離れる。それしか頭になかった。
「おいおい、全く煩わせるなよ」
空気が流れてる。後方に。あいつの方へと。嫌な予感しかしない。けど、俺は足を動かした。ただひたすらに……
「バカが、お前だけでもにげろ……」
そんなことを担いだ女が言ってくる。確かにそれが正しい。そうしないと二人共死ぬ。そんなのわかってる。けど、この女を捨てる気にはなれなかった。