(これは……おいアース。聞こえてるだろ?)
野々野足軽は頭の中でアースに語り掛ける。けどアースが応えることはない。けどそれはおかしい。だってアースはこの地球である。アースがいうにはアースは今は野々野足軽の傍にいるが、あれは別にアースの全体ではない。
寧ろ人の形にした分身みたいなのを野々野足軽の元に寄こしてる――と思った方が正しい。なのでアースはいようがいまいが、あの姿が見えようが見えなくても、アースは全てを把握してる。この星で起きてる事なら、全て……それは比喩表現ではない。
事実――純然たる事実なのだ。なので応えはしないアースに向かって野々野足軽は更に語り掛ける。
(風たちが把握してるのに、お前がこれを把握してないわけはないよな? これっていったい何なんだ?)
(…………)
結局のところ、アースが応えることはなかった。いや、その気がないんだろう。野々野足軽はあきらめる。自身の力でこの穴を調べることにした。力を流す。その穴に向けてまっすぐにだ。
これで勝手に吸い込んでくれる……いや、自身から向けさせてるんだから、より確実といえる。けど……
「は?」
なんか入ってかない。野々野足軽の力が弾かれてる。
「どういうことだ?」
押して押して押してみるが……どうやら入れないみたいだ。でも直前まではいける。感覚を鋭敏にして力の状態を確かめる。はじかれるのなら、その瞬間の反応で何が起きてるのかがわかるはず――と野々野足軽は思った。
「なにかにぶつかってる感じはあるな。けど……これって壁とかと変わらないというか……この穴に入ろうとしてるのに、蓋がしてあるような……」
でもそれはおかしいと野々野足軽は思う。だって風は入ってる。もしもこの穴に蓋があるのなら、風も入っていくはずがない。
「風……だけが入ってるのか?」
ふと思った。自分の力が弾かれてて、風は入ってる。もしかしたら見えないだけで、もっと色々とあるのかもしれない。入れるものと、入れないものが……野々野足軽は自身の視力と感覚を強化する。
力によって底上げされた視力はそれこそ見えないものを暴き出す。それこそウイルスとか、菌とか、普段ならここまでやることはない。なにせ必要ないからだ。こんな風に見えてしまったら、それこそ潔癖症になりそうだからだ。
見えないから誰も気にしないのであって、もしもこの光景がすべての人に見えてしまったら、きっと誰も生きていけなくなるんではないだろうか? と野々野足軽は思ってる。それほどに世界とは見えすぎると、うるさかった。
見えすぎて、視界に写るすべてがうるさい……そんな感じだと野々野足軽は思ってる。
「これは……大体なんでも風と一緒に通ってるけど……光は通してないのか」
どうやらこの穴が穴に見えるのはもしかしたら光も通してないからかもしれない。ということは……もしかしたらこれって『穴』じゃない? 野々野足軽はさらに困惑することになった。