uenoutaの日記

好きなものを描いたり、買ったものを紹介していきます。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 311

「協会は魔法という力を誰しもが持つことを恐れたのではないですか?」
「何を根拠にそんな……いえ、私たちは知ってるからですよ。力は正しく使われないといけないということに」
 
 プライムの質問に、俺は宗教家がいいそうなそれっぽい事を並べたてる。俺の世界にもいたのだ。力ですべてを解決するのは野蛮だという奴らは。
 ならお前たちが対話を試みればいい――そして実際に本当に心からそう思ってる人たちは魔族に殺されたわけだ。まあその人たちは自分たちの信念に準じた結果だっただろうからいいとして……問題はそこまでしなかった奴らだ。
 
 そういう奴らは言葉では奇麗で美しくて、耳障りのいい言葉を神という存在を使って語ってる。でもその本心は違う。すべては自分の為。自分を犠牲にしてまで何かをやる――なんてことは微塵も考えてないのだ。
 協会はどっちか……なんてこれまでの行いを見てればわかる。奴らは耳障りのいいことを言いつつ、全ての物を独占してる。市勢の為、民の為、世界の為……そんな言葉でこの世界を牛耳ってるんだ。
 
 よしんば、協会は何かこの世界の秘密を知ってるからそういう風にしてるのだとしてもそれだけじゃもう納得できないだろう。協会は隠し続けてる。
 
 自分たちの為に……だ。反吐が出るようなことだが、俺は今はそんな腐った協会の奴を演じてる。本当に腐った気分になる。
 
「正しくですか?」
「ええ、人は誰もが清廉潔白ではないのです」
「それはそうでしょうね」
「ではそんな清廉潔白でもない人たちが強大な力を持ったらこの世界はどうなってしまうでしょうか?」
「なるほど! 確かにそうなったらこの世界の秩序は乱れて、砂獣に立ち向かう前に人は崩壊してしまう。だからこそ、そうならないために適切な管理をしてるのが協会ということですね!!」
「よくできました」
 
 そういって俺は神父の姿でアヴァーチェの頭をなでてあげる。それを誇らしげにしてる所悪いが……今のは完全に協会の都合のいいように言っただけだからね。
 世界にはたしかに悪い奴らもいるから――っていうのは都合のいい方便なのだ。なにせ人は完全には善悪で分けるなんてことはできなくて、良い人が衝動的に何か悪い事をすることだってあるだろう。
 一度悪い事をした人だって、その後に心を入れ替える可能性はある。完全な善と悪に分かれた人間なんて本当にほんの一部。そしてそういう奴らでは世界は動かない。暗躍するのがせいぜいだ。
 
 だから大きな力をもしも広める機会があるのなら……俺なら信じる。勇者として、人の成長を信じてその力を託すだろう。悪いことは確かに起こるだろう。でも……この世界には共通の敵の砂獣がいる。そして世界の終わりは刻々と迫ってる。なら、一致団結できる可能性は高い。
 
「それが協会の大義名分ですか? ですが、それでこの世界はいい方向に向かってるんでしょうか? つい先日も一つの街が砂に埋もれたと聞いてます。
 私たちの暮らせる場所はどんどんなくなってる。このままじゃ、いずれ中央だって……」
「そんなことはありませんよ。中央は安全です」
 
 なぜかなんてしらんが、多分ここは安全なんじゃないかと思う。なにせ協会の総本山だ。だから俺は絶対の自信を見せるように手を広げてそういった。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 310

「貴方達はかつて魔法を市中に広めた神父様を抹消した……その神父様の功績をすべて協会のものとして……ちがいますか?」
「嘆かわしいですな。それは違いますよ」
「ちがうんですか? 兄上の言葉では協会がそうしたと……」
「プライム!」
 
 プライムのとんでも発言にアヴァーチェの奴がめっちゃ慌ててる。まあそうだよな。いきなり自分の発言なんて言われちゃ……でも確かにアヴァーチェがいってたよ。ちょっとニュアンスは違ったかもしれないが……
 
「そうなんですか?」
 
 少しだけ威圧を込めて俺はアヴァーチェを見下ろした。まあ普通に見下ろしても負い目のおかげで、恐ろしくは見えたであろうけど、ちょっと追い詰めて協会が怖いという認識を自然に刷り込ませようと思った。
 
「ち、違います。抹消したとはいってません。ただ……そういう神父の話を見ただけで……」
「ふむふむ、そうですか」
 
 ここで一転、俺は神父の姿でアヴァーチェの頭をポンポンする。それをどう思ったのかは知らないが……とりあえずプライムへと話をもどす。プライムならきっと、俺を追い詰めてくれるはずだ。
 
「拡大解釈がすぎますね。いや、子供はそのくらい想像力豊かな方がいいのかもしれませんが、嘘はいけませんよ」
「噓ですか?」
「ええ、私たちはそんな酷いことはしません」
「ならなぜにその神父様の名前はどこにもないのですか? 立派な事だったとあなたは言いました。なら、その神父様はたたえられるべきではないですか? 少なくとも、その存在を抹消されるべき存在ではないですよね?」
「それはですね。その神父が望んだからですよ。彼はとても敬虔な信徒でした。ですから、その功績を自分の物ではなく、協会の物とすることで、協会の影響力を強めたのです。おお! なんと素晴らしい信仰心でしょうか? わかりましたか?」
「素晴らしいです!」
 
 またアヴァーチェの奴が感涙しそうである。作り話なんだけどね。いやさ、協会の都合のいいように想像したらそうなるかなって思って。
 
「仮にそれが本当だとして、せめて教会内部くらいにはその人の彫像とかあってもおかしくないとおもうのですが?」
「かの御仁はそういうのを望まれなかったのです」
 
 すべての資料が無いのはその人が望まなかったから――死人に口なしで、協会はそういう事にしてるということにしておこう。
 
「ですが、その神父様は血浄だけを伝えたかったのでしょうか? 協会が独占してる魔法という力を広く広めたかったのでは? それを成せれば、この世界はきっともっと違ってたハズです。
 なにせ魔法は強力な砂獣への抵抗力になりえます」
 
 そういい終えて更に間を少しおいてプライムはいう。
 
「協会は魔法という力を誰しもが持つことを恐れたのではないですか?」
 
 ううむ……このまま話してて大丈夫なのかちょっと不安になってきたが、プライムは諦めてないし、俺もプライムを信じて突き進むことにしよう。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 309

「貴方達は正しい教育を受けなければなりません。そのためです」
「なるほど! 確かに協会には知識が深い方々が多い! そのためですね! 協会の知識を惜しげもなく王家にも共有しようと! その心意気、感動しました!!」
 
 あっ、うん……なんか適当に……ほんとうにテキトーに口にしたでたらめだったのに、めっちゃ好意的に解釈されて俺、ちょっと困惑だ。そんな大層はことは言ってないはずだ。一応あんまり俺からは下手に偏った発言はしないようにっておもってたんだけどな。
 
 なにせ俺が協会は悪だ――なんて神父の姿であからさまにいうと、流石に疑われるかもしれないじゃないか。だからここは俺はあくまで神父という立場で協会側にたって、痛いところをプライムに突っ込んでもらう……その予定だったんだが……アヴァーチェの奴が感涙する勢いでほめてきたからプライムだってぽかんとしてるわ。
 
 でもここで惚ける訳にもいかない!
 
「ははは、なにせ協会は全ての方々に解放されてる救いの場ですからな」
 
 自分でいってて寒気がしてきた。てもアヴァーチェは「その通りです!」とか言ってくる。まじで洗脳されてるな。ここまでもそうなんだろうなっては思ってたが、一応プライムと会話とかは成立してたじゃん。けど神父という立場の人が現れると、その言葉には頷くだけになってるぞ。
 これは協会の意向は素晴らしいとか、深い考えがあるに違いないとか勝手に思うようにされてるな……信者も深すぎれば目が曇る。そういうやつだ。そして協会は意図的に、そんな狂信者を作り上げて世界を支配ししていったんだろう。
 アヴァーチェは次期王だ。そんな次期王がこんなされたら駄目だろ。
 
「救いの場ですか……」
 
 俺がこれ以上どうしたら……と思ってたらようやくプライムが復活してくれた。
 
「私にはそうは思えません」
「おやおや、プライム君……でしたかな? 君はまだ子供ですからね。確かに親元から離されて寂しいのはわかりますが、すぐにあえますよ。信じて沢山祈ることです。そうすれば太陽が導いてくれます」
「そうだぞプライム。私も毎日祈ってる。そうすると父上と母上にもすぐに会える。あっという間なんだ。だから寂しさなんて消えるさ」
 
 うわーそれは祈りという行為で誤魔化してるだけだぞ。さみしいから一生懸命最初は祈ってたら、いつからか祈ることに目的がすり替わったんでは? 協会ならそのくらいやるだろ。
 
「私はどうして自分たちがここにいないといけないのか――その答えを問うてるだけです。心の話などしてません」
 
 バッサリ来たな。でもうだうだやってられないから助かる!
 
「ですからここでなら素晴らしい教育をですね――」
「王宮とここは近いですよ。そっちに派遣させてもらえればいいのではないでしょうか? こんな軟禁のような事をことしなくてもできる距離です」
「軟禁とは恐ろしい。どうやら祈りが足りてませんね」
「祈りでこの世界が救えるとは思えません」
「皆が祈って救われてますよ」
「そうでしょうか? この中央以外では祈りながら沢山死んでいってると風の噂で聞きましたよ?」
「そんなものは噂ですよ。協会は救いを与えてます」
 
 くっ、吐き気を催す事を言わないといけないのがつらいなこれ。
 
「救いですか? それなら祈りよりも魔法を与えたほうがいいと思います。いつかの血浄を広めた神父様のように。どうでしょうか? 血浄よりもより広い魔法を市中に広めては?」
「それはなんともいえませんね」
「なぜですか? それは祈りよりももっと直接的な救いになります。協会の本望ではないですか?」
「まだプライム君にはわからないことがあるのです」
 
 悪い大人っぽく、良い顔をしつあいまいに答える。うん、まさに悪い大人だ。自分の演技もなかなかに様になってるなって思う。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 308

「貴方達は正しい教育を受けなければなりません。そのためです」
「なるほど! 確かに協会には知識が深い方々が多い! そのためですね! 協会の知識を惜しげもなく王家にも共有しようと! その心意気、感動しました!!」
 
 あっ、うん……なんか適当に……ほんとうにテキトーに口にしたでたらめだったのに、めっちゃ好意的に解釈されて俺、ちょっと困惑だ。そんな大層はことは言ってないはずだ。一応あんまり俺からは下手に偏った発言はしないようにっておもってたんだけどな。
 
 なにせ俺が協会は悪だ――なんて神父の姿であからさまにいうと、流石に疑われるかもしれないじゃないか。だからここは俺はあくまで神父という立場で協会側にたって、痛いところをプライムに突っ込んでもらう……その予定だったんだが……アヴァーチェの奴が感涙する勢いでほめてきたからプライムだってぽかんとしてるわ。
 
 でもここで惚ける訳にもいかない!
 
「ははは、なにせ協会は全ての方々に解放されてる救いの場ですからな」
 
 自分でいってて寒気がしてきた。てもアヴァーチェは「その通りです!」とか言ってくる。まじで洗脳されてるな。ここまでもそうなんだろうなっては思ってたが、一応プライムと会話とかは成立してたじゃん。けど神父という立場の人が現れると、その言葉には頷くだけになってるぞ。
 これは協会の意向は素晴らしいとか、深い考えがあるに違いないとか勝手に思うようにされてるな……信者も深すぎれば目が曇る。そういうやつだ。そして協会は意図的に、そんな狂信者を作り上げて世界を支配ししていったんだろう。
 アヴァーチェは次期王だ。そんな次期王がこんなされたら駄目だろ。
 
「救いの場ですか……」
 
 俺がこれ以上どうしたら……と思ってたらようやくプライムが復活してくれた。
 
「私にはそうは思えません」
「おやおや、プライム君……でしたかな? 君はまだ子供ですからね。確かに親元から離されて寂しいのはわかりますが、すぐにあえますよ。信じて沢山祈ることです。そうすれば太陽が導いてくれます」
「そうだぞプライム。私も毎日祈ってる。そうすると父上と母上にもすぐに会える。あっという間なんだ。だから寂しさなんて消えるさ」
 
 うわーそれは祈りという行為で誤魔化してるだけだぞ。さみしいから一生懸命最初は祈ってたら、いつからか祈ることに目的がすり替わったんでは? 協会ならそのくらいやるだろ。
 
「私はどうして自分たちがここにいないといけないのか――その答えを問うてるだけです。心の話などしてません」
 
 バッサリ来たな。でもうだうだやってられないから助かる!
 
「ですからここでなら素晴らしい教育をですね――」
「王宮とここは近いですよ。そっちに派遣させてもらえればいいのではないでしょうか? こんな軟禁のような事をことしなくてもできる距離です」
「軟禁とは恐ろしい。どうやら祈りが足りてませんね」
「祈りでこの世界が救えるとは思えません」
「皆が祈って救われてますよ」
「そうでしょうか? この中央以外では祈りながら沢山死んでいってると風の噂で聞きましたよ?」
「そんなものは噂ですよ。協会は救いを与えてます」
 
 くっ、吐き気を催す事を言わないといけないのがつらいなこれ。
 
「救いですか? それなら祈りよりも魔法を与えたほうがいいと思います。いつかの血浄を広めた神父様のように。どうでしょうか? 血浄よりもより広い魔法を市中に広めては?」
「それはなんともいえませんね」
「なぜですか? それは祈りよりももっと直接的な救いになります。協会の本望ではないですか?」
「まだプライム君にはわからないことがあるのです」
 
 悪い大人っぽく、良い顔をしつあいまいに答える。うん、まさに悪い大人だ。自分の演技もなかなかに様になってるなって思う。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 307

「兄上の妄想はひとまず置いておきましょう」
「妄想とはなんだ!」
「いや、そうでしょう?」
 
 兄弟は楽しく言い合いをしてる。まあ楽しいのかは正直微妙だが。アヴァーチェは普通にムキになってる気がするが、プライムはそれなりに楽しそうだ。
 論破するのが好きなのかもしれない。まあ三歳児に論破されたら誰だってムキになる気もする。
 
「なにせ兄上のそれは妄想でしかありません」
「お前のだって一緒のようなものだ」
「私のは情報を照らし合わせて想像した一種の想像であって妄想とは違います。妄想とは願望ではないですか。願望は真実を覆い隠すものではないですか? 人は見たいものを見る生き物です」
「私がそんな狭量な奴だといいたいのか!」
「兄上、そうではありません。きっと私たちには情報が足りてないのです。このままでは平行線のままですよ。兄上は協会のすばらしさを知ってるようですが、私には無理矢理連れてこられた場所でしかない。もっと父上や母上と一緒に過ごしたかったのに……です」
「それは……私達だって同じた。だが、私たちは王家の人間だ。上に立つ者には責任がある。そのためにも早くから教育をだな」
「ここは王宮も近いではないですか。わざわざ引きはがす意味は分かりませんね。思惑があるとしか思えないです。それに子供はやはり親の元で育てるのがいいと協会は謳ってますよ? それは私たちには適用されないのですか?」
「私たちは市勢の民達とは違う! 王家の者だ!」
 
 アヴァーチェの言葉は王家とは言うが、その実、中心にはやっぱり協会が居座ってる。その言葉のどれもが、協会を中心にしてる……みたいな印象だ。
 プライムは純粋に子供としての感情をだしてる。親元に居たいのは子供なら当然だろう。それこそ育児を放棄されてた訳じゃない。そうであるなら、子供は親元で育てたほうがいいというのは自明の理。
 王家だから――それはやっぱり誰かの都合のせいだ。それに子供が振り回されることがおかしいと、アヴァーチェは気付いてない。王家だからという責任を植え込ませて、更に協会という組織がいかに素晴らしいかを教育して、自分の境遇がしかたなくて、延々と続いていかないといけないのか――という事を植え込まれてる。
 
 こうやって王家は傀儡になったのかも……でもそれなら、今の王様はどうやってその洗脳を解いたのか? 自身で気づけたのだろうか? これはおかしいと……協会ばかりが得してると。王の椅子に座れば、そういう事も起こりえるかもしれないが――
 
(いや、たぶん今の王が稀な筈だ)
 
 ――そう思う。普通は最後まで協会の傀儡で終わりそうだと思う。でもきっと今の王は賢かったのだろう。だからおかしいと……協会はおかしいと気づけた。その次に王になるとしたらアヴァーチェなんだろうが……こいつはそれに気付けるのか……今の洗脳具合を見てるとなかなかに厳しそうだが……けどプライムに押し負けだしてはいる。
 アヴァーチェは次第に感情的になってるが、プライムはあくまで冷静だ。その差が出てる。でもそれでも……言葉だけではやっぱり説得は難しい気はする。
 ちょっと荒療治が必要なのでは? せめてその信仰を揺らす効果的な毒が必要だ。ここは一芝居打つか? と俺は考えた。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 306

「排除……とはまた物騒な物言いだな」
「そうですか? ただの事実を語っただけですが」
 
 どうやらアヴァーチェはプライムの言葉に賛同しかねるようだ。それはアヴァーチェが本当の協会の姿を知らないからだろう。まあけどそれならばプライムはどうなんだってことだが……これまでのプライムの言動から、プライムは協会にいい印象は持ってない。それはアヴァーチェとは正反対だ。
 こんな子供が明確に他者を評価する――なんてことは普通はないと思う。なにせ幼い子供には他者を判断するだけの経験がないからだ。普通は。それにそういう思考だって育ってないだろう。三歳児なら特にそうだと思う。
 けどプライムは普通の三歳児ではない。それはこれまでの言動でよくわかってる。まあ普通に考えたら親と強制的に離れさせられたら、子供としてはいい思いはしないとは思う。
 でもそこから、アヴァーチェくらいまでには教育を完成させてるということでもあるのかも。さすがに三歳児にいきなり教育的なものはしてないみたいだし……いや一応刷り込み的なものはしてそうだが、プライムは例外的にただの子供じゃなかったからな。
 
 でもプライムも今のアヴァーチェの歳まで教会で教育をされてたら、どうなってたのかは正直わからないよな。目の前の兄のようになってしまってたのかもしれない。
 
「事実など、お前はしらないだろう! 協会がそんな事をするはずがない」
「ではどうしてその記述がないのですか?」
「それは……書く必要がなかったから」
「立派な事をしたのだといいませんでしたっけ? けどそういえば、最初に簒奪者とも言いましたね。矛盾してませんか?」
「ほら……あれだ。確かに最初は神父は魔法の知恵を無断で市中に広めたが、制御できなくなって恐ろしくなったから再び協会を頼った。それを協会は快く引き受けて、混乱する市中に『血浄』という手段を残して収めたのだ!」
「それが事実だと?」
「ああ、そういう状況が目を閉じれば見えてくるようじゃないか! きっとそうに違いない!!」
 
 やばいなこいつ。洗脳ここに極まれり……という感じになってるぞ。確かにプライムの言ったことも妄想ではあった。だから真実ではないし、そうかもしれないという程度だと自分でだって思ってはいたはずだ。
 けどそれでも色々と考察した結果ではあると思う。その資料から魔法を広めた神父の名前や後世の協会からはその存在が抹消されてたりするから、それを考えての考察だろう。
 
 けど……アヴァーチェのこれはそうじゃない。はっきり言えば、妄想と言えるレベルだ。自分の信じたい虚像を作り出し、そしてそれを正しいんだと叫ぶ。
 自分が信じるものが壊されるのは誰だって怖いから……だから奇麗なものにしたいと人は思う。それがうれしいし、そして正当性を得れるからだ。
 もっと簡単にいえば、楽だからだ。信じたものが信じた通りのものなら、人は楽なんだ。安心するんだ。それにアヴァーチェは幼い時から協会から教育されてるいわばサラブレッド。
 ようは協会の考えを刷り込まれてるといっていい。つまりは協会を否定することは自分のアイデンティティを否定することになりかねない。そんなのは簡単には認められない。大人にだって難しいだろう。それを十歳程度の少年に求めるのは酷だろう。
 
 でも……それでも……彼の弟は躊躇しないらしい。

転生したらロボットの中だった(ただし、出ることは出来ません)運命という世界線を壊せ 305

「魔法はとても尊い力だ。それを……」
「それを民たちに広めるのはプライドが許しませんか?」
「違う! そうじゃない。ただ魔法は誰にでも使えるものではない」
「そうなのですか? 学べば大なり小なりはあるでしょうが、誰しもが使えるものだとは思ったんですが?」
 
 そういいつつ、プライムはこっちを見て来る。多分何やら魔法の使用で自分の言ったことが間違ってないのか、アヴァーチェに知られずに確認してきてるんだと思う。でもな……実際、この世界の魔法が俺たちの世界とどれだけ同じかはよくわからない。
 
 魔力……というか、根源的な魔法の力を誰しもが内包してるのなら、誰もが学べばそれこそ大なり小なりではあるが、使えるようにはなるだろう。
 
(そういえば血浄は使えない奴はいないと聞くな……)
 
 親しくなった賞金稼ぎの連中からそんな話を聞いたことがある。ということは、少なくとも血浄というシステムを介せばだれもが使えるのでは? 俺はとりあえず頷いておく。
 
「魔法は尊いから……」
尊いとはなんですか? それを決めるのは? 血ですか? 立場ですか? 権力ですか? それとも職業とか? ですが確か賞金稼ぎが使う血浄というのも一種の魔法的なものだと聞き及びましたが?」
 
 一体普段からプライムは何を考えてるんだろうか? ここまでくる間の会話で別段血浄の事は言ってない。俺も今しがた血浄が思い浮かんだから、このタイミングでプライムがそのことを口にしたからちょっと驚いてる。
 
「あれは野蛮だ! 野蛮な方法とそして簒奪されたものだ」
「広めたのは確か協会だったと聞き及んでますが?」
 
 そうなのか? そこまではらしなかったな。もしかしたらジャル爺さんならそこら辺を知ってたのかもしれないが、あの人今はジャルバジャルではしゃいでるだろうからな……俺が連れてきた賞金稼ぎの連中は血浄という術を教えられてるだけで、それがどういういきさつで広まった――とかは言ってなかったからな。
 でも協会が血浄を広めたのなら、アヴァーチェがいう野蛮というのもおかしな話だ。でも簒奪されたのに広めたのは協会? というのもなんか矛盾してるが。
 
「古い記録だ。昔、血浄を広めた神父がいたようだ」
「なるほど、協会は血浄も広める気はなかったのですね。ですが一人の神父様が市中にそれを流した。それはきっとあっという間に広がったのでしょうね。既に一人二人を消せば済む問題ではなくなったので、協会が恵んだことにした――という事ですか」
「それではまるで協会が手柄を横取りしたみたいではないか!」
 
 アヴァーチェがプライムの想像に起こってるが、たぶん間違ってないよな。その通りだと思う。
 
「ちなみにその神父の名前はわかりますか?」
 
 怒ってるアヴァーチェにおじけることなくプライムはそういった。それにちょっとイラっとした感じがあったが兄というプライドがあるんだろう一応心を落ち着かせて言葉を紡ぐアヴァーチェ
 
「いや、名前まではわからなかった。消されてるようだ」
「排除されたのでしょうね」
 
 余計な事をした奴を協会がそのままにしておくとは考えにくい。その神父は協会からはどうやら裏切者として存在を抹消されてるんだろうな。お気の毒な事だ。多分、協会のやり方とか世界の厳しさに耐えかねて、本当の教えの通りにその人は動いただけだろうに……でもその神父の行動は実を結び、今日まで血浄は残ってる。
 そしてたくさんの人たちを救ったはずだ。今まで出会った協会関係者の誰よりも立派だな。