『ジャルバジャルの終わりじゃ……』
どっかの老人がそんな事を呟いた。その人は白い布をただ巻き付けた様な服を着たガリガリの骨張った老人だ。浅黒い肌に、骨と皮だけのようで、目元は窪み、唇はカサカサだった。周囲は砂に囲まれていて、そこかしこに白い何かが砂から顔をだしていた。
それが建物で、ここがかつて繁栄してた街だと知ってるのはもうこの老人だけだ。この街の名は『ジャルバジャル』砂の上に繁栄した街だった。でもそれも今や砂の中。この世界は地面から盛り上がってる砂に押し上げられて、空に輝く太陽へと近付いて行ってる時限付きの世界だった。砂に押し上げられて、地面が太陽へと達し、空と地面の境目がなくなると共に、この世界は滅びしてしまう。そんな世界。
この世界に生きる人達は砂との戦いだった。隆起する砂を止めるべく試行錯誤を繰り返してきた。そしてこの世界には『砂獣』と呼ばれる化け物がいた。それは砂の中から現れては砂上の人の生活圏を蹂躙していく。だけど、その砂獣こそが、この世界の砂を盛り上げてるのではないかという論争があった。そして実際に、砂獣を討伐する事で僅かに砂の推移を下げる事が出来るともわかってる。
だが砂獣は普段砂の中に居る……というわけでもない。奴らは死すと砂になる。つまりは砂獣は砂の中で生活してる生物ではなく、砂上の生物を殺す為に作られる砂の化身なのだ。奴らの発生は待つしか出来ず、発生しても、その数に対応できなければ、このジャルバジャルの様に圧倒されて砂に埋め尽くされて壊滅する。この老人こそが、ジャルバジャル最後の生き残りだった。
なんで老人だけ残ったのかはわからない。ジャルバジャルの惨状に目を伏せて丸くなってたから、砂獣が死んだ奴と勘違いしたのかもしれない。
「う……あ……」
ザシュザシュと砂に脚を埋めながら変な声を出して歩く。街が埋まった分、太陽に近くなり日差しが強い。喉はカラカラで、肌から出る汗も既にない。自分も死ぬのだろうと老人は思った。それは日差しか砂獣かの違いでしかない。そしてその時はやってくる。モコモコと砂が盛り上がり、それは圧倒いう間に老人の背丈を超えた。黒光りする体は堅そうで、口には大きな牙がある。そして六本脚の脚は体を支えるにはあまりも細くて気持ち悪い。砂獣だった。
「あっ……ああああああああ!」
背後にむかって走り出すが、直ぐに砂に脚を取られて、その場に倒れ込む。そこに砂獣が背中に脚を乗せて押しつけて来た。それだけで老人の皮と骨だけの体は砕かれそうだ。だが絶妙に苦しみだけを与え続け、その大きな牙を頭へと近づける。頭をかみ砕く気なのだ。
老人の耳に砂獣の牙が合わさりあうガチンガチンという音が鼓膜から脳に響いてきこえた。意識を手放した方が楽だろうに、老人はそれでも意識を手放す事はなかった。だけどその時だ。空から一本の輝く剣が降ってきた、砂獣の頭を吹き飛ばした。そして続いて、小さな二人と大きな一人が、空からこの地に降り立った。老人は天の遣いだと彼等を拝んだ。